4.多職種連携

「多職種連携」について

平成29年10月12日 徳田和弘

【はじめに】
我が国の高齢化率1)は27.3%(2016年10月1日現在)で、既に超高齢社会に突入している。2025年には30%を超えると予測され、それに伴い生活習慣病の増加等、疾病構造の変化により在宅医療の必要性が増し、地域住民が住み慣れた地域で、安心してケアを受けることができる体制(地域包括ケアシステム)づくりが求められている。そのシステムを構築するために、地域において多様な専門職が共通の目標に向けて協働する理念、多職種連携2)(inter-professional work = IPW )が取り入れられた。
ここでは、地域包括ケアシステム構築の流れと多職種連携について。また、多職種連携における歯科医療の役割について述べたい。

【地域包括ケアシステムとは】
厚生労働省は、地域包括ケアシステム3)について、「団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を実現していきます。地域包括ケアシステムは保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要です。」としている。

【システム構築の流れ】
2000年に介護保険制度が施行され、要介護で介護サービスを利用する人が増加し、在宅ケアの現場において、多職種が協働する必要性が認識されるようになった。2005年の介護保険法改正で、少子高齢化の進行が引き起こすと予想される問題を緩和するために、地域住民の介護や医療に関する相談窓口「地域包括支援センター」の創設が打ち出された。歯科に関しては「口腔機能向上サービス」が導入された。
2011年の同法改正では、「自治体が地域包括ケアシステム推進の義務を担う」と明記され、システム構築(住まい・医療・介護・予防・生活支援の一体的な提供)が推進されるようになった。2014年の同法改正では、システム構築に向けた在宅医療と介護の連携推進、地域ケア会議の推進等が取り入れられた。地域ケア会議では、歯科医師と歯科衛生士は主な構成員として明示された4)

【システムに必要とされる「多職種」とは】
地域包括ケアシステムが機能するためには、多職種連携は必須であり、具体的な職種としては、以下が挙げられる。
医療系…医師・歯科医師・薬剤師・看護師・歯科衛生士・保健師・管理栄養士
介護・福祉系…介護支援専門員(ケアマネージャー)・介護福祉士・社会福祉士
リハビリテーション専門職…理学療法士・作業療養士・言語聴覚士・視能訓練士
また、近年の流れとして多職種連携は「専門職」だけに限らず、医療ソーシャルワーカー・自治会などの地域支援者・NPO法人の職員・ボランティア団体のメンバー・老人クラブなども挙げられる5)

【連携の形】
地域包括ケアシステム6)の5つの要素が有機的な関係を担って連携する。
住まい…自宅・サービス付高齢者住宅等
医療…病院(急性期・回復期・慢性期)
日常の医療(かかりつけ医・有床診療所・地域の連携病院・歯科医療・薬局)
介護…在宅系サービス(訪問看護・訪問介護・通所介護等)
施設居住系サービス(介護老人福祉施設・介護老人保健施設等)
介護予防サービス
予防…介護予防
生活支援…自治会・ボランティア・NPO・老人クラブ等
高齢者のプライバシーと尊厳が十分に守られた「住まい」が提供され、その住まいにおいて安定した日常生活を送るための「生活支援・福祉サービス」があることが基本要素となる。その上で、専門職による「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・予防」が効果的な役目を果たすものと考えられる。

【地域包括ケアにおける歯科の役割】
口腔機能低下は認知症や全身的な疾患、あるいは運動機能、生活機能とも密接に関連していることのエビデンスが示され、口腔の健康保持の重要性は、医科においても共通の認識となっている。一例として、糖尿病と歯周病との間の相互関連性については、多くの研究が報告され、歯科的アプローチが糖尿病の予防・治療に大きな効果を及ぼすことが明らかになってきており、医科との連携は重要である。
近年では、オーラルフレイルの考え方が提唱され、フレイル状態や身体的機能障害に陥らないためにも、歯科の関わりは大きい。また、摂食・嚥下障害リスクは、日常生活動作の低下に随伴して増大するため、在宅療養者に対する食事・栄養支援において、栄養サポートチームに歯科が加わることにより、質の高い栄養ケアの体制を構築している地域もある7)
約80の学会が参画する、日本歯学系学会協議会は、「地域包括医療・介護における多職種連携に関わる提言」を発表し、①新しい多職種連携の構築を主導する、②地域包括ケアシステムのフォローアップ、③情報共有を図る、等としている⁸⁾。提言では、超高齢社会において、日本歯科医師会、日本歯科医学会などの諸団体との共同作業が不可欠とし、学会間の横断的な取り組みの推進を強調している。

【まとめ】
多職種連携が確立され機能するには、地域においてリーダーシップを発揮する組織が存在し、これらが有機的に連携をとる事が重要であると考えられる。以前より多職種連携が機能している代表的な取り組みとして、①地域のケア研究会を中心とした連携、②地域の医師会、歯科医師会が主体となり中核病院との連携、③行政(保健所)がコーディネートする連携、等が挙げられる8)。また、専門職のみならず、いくつかの団体同士の連携も進んでおり、今後の多職種連携の流れを後押しするもの考えられる。
一方で、地域ケア会議への医師・歯科医師・歯科衛生士の出席は、まだ十分ではないとの報告もある9)。WHOは2010年に「多職種連携教育と連携実践のための行動枠組み」10)を発表し、地域単位での多職種連連携のための研修・多職種連携教育(inter₋professional education = IPE )を推進し、実践することによって、地域のケアシステムが構築されていくという事を示している。我が国では、保健医療福祉系の大学を中心に、多職種連携教育への取り組みが進んでいるが、医療系大学の教育プログラムにおける多職種連携教育や、地域単位での多職種連携教育を行う事により、地域の実情にあった多職種連携が構築、展開できるものと考えられる。

【参考資料】
1.内閣府HP 平成29年版高齢社会白書(全体版)
2.多職種連携(IPW)について
www.zaitakuiryo-yuumizaidan.com/textbook/pdf/1-10.pdf
3.厚生労働省HP 地域包括ケアシステム
4.地域包括ケアシステムとは?超高齢化社会に求められる新しい介護の形
www.irs.jp/article/?p=176
5.松岡千代 多職種連携.TRUE COLORS JAPAN truecolorsjapan.jp/for-helpers/ipw/
6.地域包括ケアシステムって何?www.ee-life.net/hatena/t_h_c_system.html
7.三浦宏子 薄井由枝.地域包括医療・ケアの動向と今後の口腔保健
J.Natl.Inst.Public.Health.60 (5):2011
8.日刊 歯科通信 5153 号 7.17 2017
9.村中峯子,地域ケア会議を通じた地域包括ケア推進における歯科医療・口腔保健と保健師の役割 J.Natl.Inst.Public.Health,65(4):2016
10.WHO(2010) Framework for action on interprofessional education and collaborative practice.  http://www.who.int/hrh/resources/framework_action/en/