6.専門的口腔ケア

専門的口腔ケアについて

平成29年4月20日 大井 了

【 はじめに 】
国は、2025年を目途に「住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築の実現」を目指している。これは、病院で入院している時間を少しでも短くして、要介護状態でも住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを最後まで続けることできる社会を作ることである。従来の医療提供者と本人・家族だけでなく、いろいろな職種の人たちが連携して、公助・共助・自助を一体的に進めていく、これが地域包括ケアシステム全体の大まかなイメージとなる。
この地域包括ケアシステムの中で、口腔ケアはむし歯や歯周病予防のためだけではなく、全身の健康を守るためにとても重要な役割を果たすことになる。口腔ケアを必要としている人は、身体機能の低下に加え、多くの場合、摂食・嚥下障害など何らかの口腔機能の低下がみられ、器質面だけでなく機能面からのケアも欠かせない。口腔ケアは、口腔内の歯や粘膜、舌などの汚れを取り除く器質的口腔ケアと口腔機能の維持・回復を目的とした機能的口腔ケアから成り立っている。この2つが、うまく組み合わされることで、口腔ケアの効果がさらに高まる。
ここでは、具体的な手法、使用器具、薬剤等の説明ではなく、専門的口腔ケアが抱える問題点を述べる。

【 セルフケア※とプロフェッショナルケア*の概要 】
口腔ケアの基本は、歯科医師・歯科衛生士による口腔清掃についての適切なアドバイスに基づいて、自分自身で行う毎日のケア(セルフケア)と、歯科医師・歯科衛生士による専門的歯面清掃および口腔機能に対するリハビリテーション(プロフェッショナルケア)である。また、要介護者ではこれらのケアに加えて、介護職や看護職、家族によるケアが大切になってくる。

※セルフケア(口腔ケア)とは本人が
・規則正しい生活習慣の獲得に努める
・むし歯を引き起こす甘味食品の量を制限し、栄養バランスのとれた食事をよく噛んで食べる
・適切な歯ブラシや歯間清掃用具を選択し、すみずみまできれいに清掃する
・全身のリラクゼーションを心がけ、顔面、口腔をよく動かし、摂食・嚥下のための良好な口腔機能を保つ
・フッ化物入り歯みがき剤を使用し、むし歯予防に役立たせる
・定期的に歯科健診を受ける

*プロフェッショナルケア(専門的口腔ケア)とは歯科医師、歯科衛生士が
・むし歯、歯周病の状況を診て、全身状態、口腔内の状況に合った適切な口腔清掃のアドバイスをする
・日常的には清掃できない部位の専門的歯面清掃する
・口腔機能の維持、回復を図る機能的口腔ケアをする
・食介護への支援をする
・フッ化物洗口など、予防に関係する薬剤の紹介と正しい使い方の指導をする

【 専門的口腔ケアの抱える課題と今後の解決策 】
高齢者の大半は何らかの全身疾患をかかえるとともに歯科疾患を持っている。歯科疾患をそのままにして、看護職員や介護職員が口腔の清掃をやったとしても、その効果は上がりにくいのが実情である。そこで口腔ケアを成功させるには、事前に全身の状態を知り、口腔内の病態の把握と定期的な評価が欠かせない。歯科医師や歯科衛生士による訪問診査・診療そして専門的口腔ケアが行われ、看護師や介護職員、家族が日常的な口腔ケアを行えば、質の高い口腔ケアを本人に提供することができる。
専門的口腔ケアを含めた歯科訪問診療は、介護施設で比較的多く行われるようになってきたが、病院や在宅では歯科疾患の病態が深刻な場合でも、専門的口腔ケアは、まだまだ行われていないのが実情である。高齢者や要介護者の退院時には、歯科医師の診査、診断を受け、介護職員や家族へ本人の病態や歯科治療の必要性について説明し、口腔ケアの方法を伝達することが重要である。またこの診査、診断をもとにケアマネジャーがケアプランに組み込むようにすることが大切と思われる。
2025年に向かい専門的口腔ケアの必要性はますます多くなる。歯科衛生士が、病院や介護施設などの施設や在宅で、歯科衛生士法に定められた3つの役割(歯科予防処置、歯科診療補助、歯科保健指導)が発揮できるように条件の整備を行うこと、地域包括ケアシステムの中で歯科に関わる管理責任者として地位を確立すること、また、未就業の歯科衛生士の再教育と現場への復職を推進し、人員の不足を解消することなどを行い、私たち歯科医師の指導のもとで専門的口腔ケアが提供されることを望む。

関連資料
多職種協働チーム先制医療での口腔ケアFAQ50 一世出版社 2016
鴨井久一 菊谷 武 監修