2.医薬分業について

平成29年1月19日 薄葉博史

明治時代以降の我が国における医薬分業の歴史
医薬分業は、ヨーロッパにおいては神聖ローマ帝国のフリードリッヒⅡ世(1194~1250)が毒殺を恐れ、主治医の処方した薬を別な者にチェックさせたのが始まりと言われており、それ以降西洋医学では当たり前のこととして行われてきた。しかしながら、東洋医学の流れが強かった我が国においては、漢方を調剤するのは医師の仕事であるとの考え方から、西洋医学が入ってきても医師の調剤が当たり前のように行われ、医薬分業が行われなかった。
明治時代に西欧先進国から様々な制度を学び、取り入れる時に既にドイツで行われていた医薬分業を採用した。しかしながら、薬剤師や薬舗が不足していたため医師による調剤が認められていたため実態として進むことはなかった。
第二次世界大戦後、GHQは日本政府に対してアメリカ流の医薬分業の実施を迫った。日本医師会は投薬が医療行為であるとの声明を出して反対の姿勢を取ったが、厚生省は1951年(昭和26年)に「医薬分業法案」を成立させた。しかし、日本医師会の反対もあり実施されるのは1956年(昭和31年)からとなった。これには、収益源である薬価差益を手放すことを医師会は好まず、医師が調剤をする状況がその後も続く事となった。
この状況が大きく変化したのは、1974年(昭和49年)の診療報酬改定である。診療報酬改定で処方箋料が6点(昭和47.2)であったものが、10点(昭和49.2)さらに50点(昭和49.10)に引き上げられた。この結果、医薬分業が進むこととなり、これを医薬分業元年としてとらえられている。

【医薬分業推進の背景】
医薬分業を推し進める狙いは、大きく分けて2点にある。
第1に医師と薬剤師がそれぞれの立場から機能を発揮して、患者の安全性を確保することである。薬剤師は処方箋を確認し、投薬ミスを防ぐと共に患者の薬歴の確認や副作用が出ないように指導することにある。
第2に「薬漬け医療」「過剰投与」の防止にある。薬価は公定価格であるが、仕入れ価格については卸業者との交渉で決定されるので、薬価差益を享受できる仕組みになっている。こうした価格差の存在が、いわゆる薬漬け医療の根源となっていた。1989年(平成元年)に衆議院決算委員会で薬価差益が1兆3000億円(当時の薬剤費全体の25%)と公表されたことで、さらに医薬分業が意味のあることであると議論されるようになってきた。
2015年(平成27年)の厚生労働省資料によれば、医薬分業率は、全国平均で70%水準に達したと示されている。しかしながら、調剤薬局の少ない地域や、高齢化が進み患者の利便性を考え院内処方を続けている医療機関も少なくない。 (国の施策としては、安全性の確 保が利便性より大きい)

【医薬分業のメリット・デメリット】

患者: メリット ・医薬品に関する十分な説明が受けられる。
・適切な服薬指導が受けられる。
デメリット ・薬局に行く二度手間
・医師の出した薬でないという心理的不安
医療機関: メリット ・医薬品購入費削減
・医薬品在庫の減少とスペース増大
・処方薬の範囲拡大
・請求事務の軽減
・調剤薬局との連携
デメリット ・薬価差益の減
調剤薬局: メリット ・薬歴管理による副作用の未然防止
・重複投薬の防止
・医療機関との連携
デメリット ・医薬品在庫の増加

【医薬分業と医療費の関係】
このような中で、調剤報酬、薬剤費、医療費の関係はどのように推移しているのであろうか。国民医療費はここ20年間で一貫して上昇を続け、40兆円に達している。この中で薬剤費は7兆円程度となっているので、薬剤比率は1993年(平成5年度)で20%台後半であったが、直近の10年で見ると20%程度で推移している。また、厚生労働省の推計による薬価差は20%位であったものが8%程度にまで低下している。(厚生労働省2015年規制改革会議公開ディスカッション資料による)
厚生労働省「平成26年度医療費の動向」によれば、概算で総医療費40兆円、医科32.6兆円(81.6%)、歯科2.8兆円(7.0%)、調剤7.2兆円(18.0%)となっており、医科入院外と調剤の合算は21兆円(52.5%)となっている。平成22年度から平成26年度までの医療費の推移をみると、総医療費は、3.4兆円の増加で、医科2.1兆円増、歯科0.2兆円増、調剤1.1兆円増で入院外と調剤の合算では2.0兆円の増となって、医薬分業が進み定着してきていることが読み取れる。しかし、薬局等に支払われる調剤技術料等は薬剤費には含まれていない。2000年(平成12年)から2012年(平成24年)にかけての概算医療費の伸び率は30.5%、歯科は5.4%であるのに対して調剤薬局は138%となっている。調剤薬局の内訳を見ると調剤技術料92%、指導管理料62%の伸び率にすぎないが、ジェネリック医薬品を推進しても薬剤料は164%と大幅な伸びを示している。
また、院内処方の場合は、医療機関に薬剤情報提供料、手帳記載加算、調剤料、処方料、調剤技術基本料だけですむのに対して、院外処方の場合は、医療機関では処方箋料が調剤薬局では、調剤基本料、調剤料、薬剤服用歴管理指導料、薬学管理料等があるため患者一人あたりの医療費は高くなる傾向にある。

【今後のあり方】
医薬分業の背景で述べた2つの目的である、患者の安全の確保と医療費の適正化が達成されているかを充分に検証する必要がある。患者が「かかりつけ薬局」を持っているか、必ず「お薬手帳」を提示すれば、飲み合わせや重複投薬が防げるのでかなりの確率で安全の確保はなされると思われる。また、今後ICTの利用により、医療IDの活用などで医療機関と薬局の間で情報の共有化が図られれば、まさに安全、安心な環境を構築することができる。
医療費の削減という観点からすれば、今までは調剤薬局の経営の健全化という観点から、様々な保険点数が割り当てられてきたが、医薬分業がここまで進んだ事を考えれば調剤に対する点数の引き下げや、さらなる薬価の引き下げが必要であろう。また、今後OTC医薬品(一般薬)の利用によるセルフメディケーションが進めば、医療費の適正化も促進されるのではないかと考えられる。

【まとめ】
実体験を踏まえての考察を述べさせていただく。
32年前の開業以来、院外処方を行っている。これは、当時より近隣の内科が既に院外処方を実施していたため、調剤薬局が数軒あったので対応できた事に他ならない。歯科医療機関では、投薬を必要とする処置が限られるため、様々な薬を院内に確保して管理したり、棚卸しを行ったり、有効期限を確認して投薬することが難しいと思ったからである。
レセプトの電算化により突合点検も行われているが、「かかりつけ薬局」と「お薬手帳」の定着により薬局からの事前連絡があるため、今までに1件の査定があったにすぎない。また、一般名処方としているため、ジェネリック医薬品に変更した場合は薬局からファクシミリで連絡がある。現在においても院外処方として処方箋を一般名で処方しているが、歯科における保険点数が抑制されている中で、経費削減としても有効であると思われる。(処方箋料68点と一般名加算1の3点 または一般名加算2の2点を加えることができる)ただし、一定の調剤薬局に患者を誘導してはならないことを熟知しておくべきである。

〈参考文献〉
1.医薬ジャーナル社 「医薬ジャーナル」2014年2月号
日本の薬剤師の将来に何が見える?
2.Wikipedia 医薬分業
3.日本総研 「JRIレビュー2015Vol.11,No.30」
医薬分業政策の評価と課題 副理事長 翁 百合
4.一般社団法人奈良県薬剤師会ホームページ「医薬分業」
5.厚生労働省2015年規制改革会議公開ディスカッション資料
6.厚生労働省 平成26年度 医療費の動向 平成27年9月3日発表
7.内閣府 規制改革会議「医薬分業における規制の見直し」説明資料 平成27年3月12日