1.オンライン資格確認

2021年12月16日 常務理事 田中良彦

【はじめに】
2021年10月20日からオンライン資格確認の本格運用が始まった。これはマイナンバーカードをカードリーダーによって、健康保険証の資格を確認することである。これによって、直近の資格情報(加入している医療保険や自己負担限度額等)が確認でき、期限切れや失効している保険証の受診による過誤請求を防ぐことができる。しかし12月5日現在、全国の歯科診療所で6.5%だけしか運用を開始していない状況である。さらに2015年10月から通知されたマイナンバーは翌年にマイナンバーカードとして発行されたが、現在このカードの取得者は人口の40%以下である。今回はマイナンバー制度とオンライン資格確認について考えてみたい。

【歯科医師会のICT戦略とマイナンバーカードの経緯】
2014年11月 日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の三師会連名により「医療等IDに係る法制度整備等に関する三師会声明」1)を発表。
12月 厚生労働省の中間取りまとめにおいて、①マイナンバーを医療の中には導入しない②医療等分野においての連携、医学・医療における研究等にはマイナンバーとは別の番号を用いることが望ましい③医療等分野における番号は必ずしも悉皆性や唯一無二性を担保する必要はないが、その個人と一意性を持つことは必要であることが明記された。
2015年6月 日本医師会では「日本再興戦略改訂2015」2)の中に「医療等分野における番号制度の導入」が盛り込まれ、これにより「医療等ID」の導入は実現に向けた具体的な検討が行われた。より高度なセキュリティを確保するために、保健医療福祉分野の公開鍵基盤(HPKI)の技術を用い、「医療等分野専門ネットワーク」の構築が必要であった。そして日本歯科医師会ではこの方法に追随することとした。
2019年2月 政府は医療・介護関連法改正案3)を閣議決定した。マイナンバーカードによって加入健康保険情報を確認できる規定を新設した場合、システムを導入した医療機関では保険証の提示は必要ではなく、医療機関側も事務作業が軽減する。
2020年12月 2021年9月に発足するデジタル庁を司令塔に、行政のデジタル化を一気に進めていく方針を閣議決定した。マイナンバーカードは23年3月末までにほぼ全国民が取得する目標で、21年3月に健康保険証と、24年度末に運転免許証と一体化を実施することとした。
2021年3月 マイナンバーカードを健康保険証として利用できる新システム(オンライン資格確認)で、4000人分の個人番号が誤って入力されていたことが分かった。他にもトラブルが相次ぎ、予定されていた3月末の運用を10月に延期した。
10月 20日よりオンライン資格確認が本格的に運用された。約23万件の医療機関や薬局で顔認証付きカードリーダーを設置したが、運用を開始したのはわずかに約6.5%であった。カードがなくても保険証だけで資格確認をすることができ、カードがあれば保険者番号・生年月日等の情報が収得できるだけでなく、特定健診や薬剤の情報も閲覧できるようになる。

【問題点】
1.セキュリティ
2015年に個人の医療情報はセキュリティに問題があるマイナンバーを利用しないで、「医療ID」を「医療等分野専門ネットワーク」を用いて運用することが決まったが、2019年には健康保険情報がマイナンバーカードに記録されることになった。このマイナンバーカードのセキュリティは大丈夫なのか。
2.オンライン資格確認4)の普及
2021年12月の全国歯科診療所(70.835施設)での状況は次のとおりである。
顔認証付きカードリーダー申込 48.7%
準備完了施設          9.0%
運用開始施設          6.5%
導入にかかる費用は、歯科診療所ではカードリーダー1台は無償提供で、それ以外の費用は①資格確認端末の購入と導入 ②レセプトコンピューター等のアプリケーションを組み込むパッケージソフトの購入と導入 ③オンライン請求回線の導入、既存のオンライン請求回線の増強 ④レセプトコンピューターの既存システムの改修等、周辺機器の整備費である。これらの事業費の42.9万円を上限に、その3/4の32.1万円を補助することになった。導入時には手厚い補助があるが、その後はランニングコストがかさむと思われる。
この状況でどれだけの診療所がオンライン資格確認システムを導入するだろうか。
3.マイナンバーカード5)の普及
2013年にマイナンバー関連4法が公布され、2016年よりマイナンバーの運用と交付が開始された。交付後5年経った今でも全国民のカード取得率は40%に満たない。さらに患者が事前に専用サイト「マイナポータル」で保険証利用の登録をしたカードを持参しなければ、オンライン資格確認に利用できない状況である。
どのようにすれば患者にマイナンバーカードの必要性をアピールできるのだろうか。

【考察】
2019年2月の日本医師会の定例記者会見6)で石川広己常任理事は「マイナンバーに医療情報を紐づけることで医療情報の管理ができるというような記事が見られるが、こうした考えを断じて容認しないという日医の姿勢は一貫している」と述べている。
総務省のホームページ7)には「マイナンバーカードには様々なセキュリティ対策が施されており、重要な個人情報が流出することはありません。なぜなら、カードのICチップ内には、プライバシー性の高い個人情報は記録されていないからです。」と記載されている。確かにカードには4種類のパスワードが設定されており、間違えるとロックがかかる。さらに顔写真が付いていることでなりすましを防ぎ、「マイナンバー法」によって取り扱う行政や民間企業に対するセキュリティ対策が施されている。プライバシー性の高い個人情報、例えば治療歴、投薬歴(電子お薬手帳)はカード内に記録されていなく、レセプト等を管理している支払基金や連合会に保存されている。そして本人の同意があればカードより情報を参照することができる。
歯科診療所にとってオンライン資格確認は現在、必ずしも必要なものではない。しかしこれを利用すれば保険証を違法に使用する患者を排除することで医療費詐欺を防ぐことができる。コロナ以前は外国人のなりすまし患者が多く見られ、記載されている年齢と見た目が明らか違っているが顔写真が保険証に掲載されてないので、確認方法がないために治療せざるを得ない状況であった。今後、マイナンバーカードのみ所持し、保険証を持ち歩かない患者が増えると医療機関や薬局はオンライン資格確認システムの設置が必要となるであろう。一方、レセプトのオンライン請求8)をしている診療所はその回線等を利用してカードリーダーを設置すれば資格確認をすることができるが、オンライン請求をしている歯科診療所は未だ全体の約20%である。

国民のマイナンバーカードの取得が進まない。先月の記者会見9)で金子総務大臣は「令和4年度末にほぼ全国民の75%にあたる9500万人にカードが行き渡ることを目指し、補正予算に9500万人分のポイント予算を計上した。関係省庁と連携し、カードの普及を促進していきたい」と述べ、新制度ではマイナンバーカードを健康保険証としての利用を登録すれば、マイナポイント7500円分を付加することに決めた。さらに2024年には運転免許証との一体化も予定されている。しかしマイナポイント頼みではマイナンバーカードの普及率は増加しないであろう。マイナンバーカードのセキュリティ対策を疑問視する人がいるが、これは誤解している人が多いと思われる。例えば新規に銀行口座を開設すると、その口座とマイナンバーが紐づいているためにマイナンバーカードの有無にかかわらず、すでに行政に管理されている。そのために行政がそれを悪用すれば個人の銀行預金を把握することができる。マイナンバーカードの取得は各個人のカード利用によるメリットと、新規制作に手間のかかるデメリット等を比較して決められるので、多くの国民に普及されるのにはまだまだ時間がかかりそうだ。

【まとめ】
コロナ禍で日本のデジタル化は進歩した。初めの給付金ではマイナンバーと紐づかなかったために混乱をきたしたが、ワクチン接種ではマイナンバーで管理をしたために、各自治体で住民の接種状況を把握することができている。スマートフォンでのワクチン証明書の発行も始まった。はじめから「社会保障・税・災害」の3分野に限定してマイナンバーが利用されているが、将来は幅広く行政分野や官民連携での利用が予想される。
今後のマイナンバーの歯科医療分野での利用は、患者やレセプトの管理に利用したい。すでに保険証と紐づけられているので、結婚等で氏名や住所を変更した患者や、前回来院時から長く間隔の空いた患者を誤りなく把握できるのではないかと思う。さらにレセプト審査にも利用すれば効率的に審査できると思われる。

参考文献

  1. 医療等IDに係る法制度整備等に関する三師会声明
    日医ニュース https://gemmed.ghc-j.com/?p=4179
  2. 日本再興戦略改訂2015
    内閣府 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2015/0630/shiryo_02-1.pdf
  3. 医療・介護関連法改定正案
    毎日新聞 2019/2/15
  4. オンライン資格確認
    厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08280.html
  5. マイナンバーカード
    総務省 https://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/03.html
  6. 日本医師会定例記者会見
    日医ニュース https://www.med.or.jp/nichiionline/article/008474.html
  7. マイナンバーカードのセキュリティ対策
    セキュリティ通信 https://securitynews.so-net.ne.jo/topics/sec_20154.html
  8. レセプトのオンライン請求
    支払基金 https://www.ssk.or.jp/
  9. マイナンバーカード金子総務大臣の記者会見
    NHKニュース
    https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211204/k10013374971000.html