2.歯科大学・国立大学歯学部増設の歴史

歯科大学・大学歯学部増設の歴史

2019年1月24日 徳田和弘

【はじめに】
我が国の正式な歯科医学教育は、1906年(明治39年)に制定された公立私立歯科医学校指定規則に基づき、1907年(明治40年)2校の歯科医学専門学校(共立歯科医学校・現日本歯科大学、東京歯科医学専門学校・現東京歯科大学)が設立されたことに始まる。以後1928年(昭和3年)までに、合わせて8校の歯科医学専門学校が設立された。
その後、戦後の学制改革により2校が廃校となり、残る6校中5校が1946~47年(昭和21~22年)に旧制大学へ昇格し、1校が1949年(昭和24年)新制大学へと昇格した。
以後、我が国の歯科医学教育(歯科医師養成)は、この6校(日本歯科大学、東京歯科大学、日本大学歯学部、大阪歯科大学、九州歯科大学、東京医科歯科大学)において行われてきた。
1952年(昭和27年)、大阪大学歯学部が設立され7校になると、1961~79年(昭和36~54年)には、18年間で一気に22校が設立され、全国の歯科大学・大学歯学部は29校となり、現在に至る。
ここでは1960年代からの増設の歴史と、そのきっかけとなった歯科医師需給問題について述べたい。

【歯科大学・大学歯学部増設の背景】
1960年(昭和35年)当時、7校の入学定員数は合計で740名1)、全国の歯科医師数は31,109人、人口10万人対歯科医師数は34.8人であった。2)
その後、1960年代半ば頃から、生活環境や食生活の変化等によって、いわゆる「むし歯の洪水」と言われる状況が起こり、歯科医療需要の増大とともに歯科医師不足が社会問題化していた。これに対し国は、1967年(昭和42年)までに国立大学歯学部を5校設立する。また、既存の歯学部の入学定員数増加も図られたが、十分な効果は得られなかった。
1970年(昭和45年)、当時の厚生省は、人口10万人対歯科医師数36.5人であった歯科医師数を、1985年(昭和60年)までに50名とする目標を掲げた。3)その結果、前述の通り、18年間に22校が設立されるという、歯科大学・大学歯学部急増期を迎えることになる。
それらを一覧すると、表1の通りである。

この結果、7校で740名であった入学定員数は、1980年(昭和55年)には、29校で3,360名にまで急増した。こうした歯科医師増加政策により、1984年(昭和59年)全国の歯科医師数は63,145人、10万人対歯科医師数も52.5人となり、当初の目的は達成された。
1970年(昭和45年)の政策決定以降に設立された14校のうち、国立大学は4校、私立大学は10校で、その多くを私立大学が担っていた事が分かる。大学設立は本来文部省の管轄であるので、歯学部増設は厚生省との連携であったことは想像に難くない。本学新潟生命歯学部も正にこの時期に設立されており、当時の設立事情については、本学学長・中原泉氏の「第二歯学部は、新潟市!」4)に詳しく述べられている。

【その後の需給問題に関する主な政策について】
・1982年(昭和57年)一転して歯科医師過剰が懸念されるため、削減に向けた閣議決定がなされる。
・1986年(昭和61年)厚生省「将来の歯科医師需給に関する検討委員会」の最終意見に基づき、以後10年間で入学定員数の20%削減目標が示され、この目標は達成された。
・1998年(平成10年)厚生省は更なる10%の削減を求めたが、達成を見ていない。
・2006年(平成18年)「歯科医師の養成数の削減等に関する確認書(文部科学大臣 厚生労働大臣)」が取り交わされ、一層の定員削減と、歯科医師国家試験の合格基準の引き上げが示される。
これらの結果、1985年(昭和60年)には3,380名であった入学定員数は、2018年(平成30年)には2,481名5)となり、削減目標への方向性は示されている。

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ちなみに2016年の医師数は319,480人、従事する主たる診療科別にみると、最も多いのが内科で60,855人、次いで整形外科21,293人、小児科16,937人となっている。

【まとめ】
歯科医師不足という、言わば国民的問題解決のために、早急な対策が必要であった事は、言を俟たない。しかしその急激な増設が、歯科医師過剰時代を招いたとすれば、今日の状況は皮肉な結果と言えるだろう。他方、国民にとっては、より良い治療を受けるための選択肢増加に繋がり、「8020運動」における達成者50%超え等は、30年来の啓発活動によりもたらされた結果と言え、立場の違いによって、評価の分かれる部分もあるが、双方における検証が求められる。
日本歯科医師会の試算では、「歯科医師数は上限82,000名(10万人対歯科医師数71.4名)、新規参入歯科医師数は1,500名程度を上限と考える。」6)としている。さらに、「今から新規参入を1,500名に削減したところで、今後20年間徐々に歯科医師数は減少しては行くが、それまで過剰状況は続く。」と予測している。医師数との比較は、前述の通りであり、こちらは逆に不足が叫ばれて久しいが、それらを勘案しても、現在の歯科医師数は過剰状態と言えるのではないだろうか。
一方で、18歳人口は1992年(平成4年)の205万人をピークに、2014年(平成26年)には118万人にまで減少し、今後さらに減少して行くと予測され、7)教育機関は「数」の問題に加え、「質」の問題にも直面する事になる。また、国家試験は2006年(平成18年)の確認書以降、選抜試験の様相を呈しており、対応すべき課題は多い。
今後も続くこの問題には、緻密なシュミレーションに基づく展望と、超高齢社会における需要の多様性、特に在宅や介護における歯科の必要性は、今後益々増えると予想され、現在でもその提供は十分とは言えない。これらの分野に需要を見出す等、広い視点に立った施策が望まれるところである。

【参考資料】
1) 日本の歯科医学教育の現状と問題点 榊原悠紀田郎 医学教育第4巻・第2号1973
2) 厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」歯科医師数の推移
3) 厚生省「将来の歯科医師数、将来の歯科医師需要に関する検討委員会」1986
4)日本歯科大学校友会・歯学会会報 中原 泉 一枚の写真「第二歯学部は、新潟市!」
5)文部科学省 歯学部歯学科の入学定員一覧(平成30年度)文部科学省医学教育課調べ
6) 日本歯科医師会 歯科医師需給問題の経緯と今後への見解 2014
7)内閣府 18歳人口と高等教育機関への進学等の推移