7.家族療養費と療養費払い

柴田 えり子

【はじめに】
現在、日本の医療保険制度は1958年に国民健康保険法が制定され、1961年に全国の市町村にて国民健康保険事業がはじまり、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入し、お互いの医療費を支え合う「国民皆保険」制度1)です。この公的医療保険には国民健康保険、全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)、組合管掌健康保険、共済組合などの医療保険制度があります。今回は、被用者医療保険(国民健康保険を除く医療保険)における給付の一つである家族療養費と療養費払いについて述べます。

【家族療養費】
保険給付とは、被保険者や被扶養者の業務外の病気・ケガ、及び出産、死亡の場合に、現物給付として医師・歯科医師の診療を提供し、定められた各種の給付金を現金で支給する事であります。健康保険を扱っている医療機関(保険医療機関)に被保険者証を提示すれば、健康保険で医師・歯科医師の診療を受けることができます。つまり、診療・歯科診療という現物の給付を受けるわけです。このように被保険者証を提示して受ける現物給付を、療養の給付(被扶養者の場合は家族療養費)と言います。家族療養費の趣旨は、被保険者の家族の傷病に際し、経済的負担を軽減させ、生活の安定を図る為のものです。
現行では家族療養費の給付においても、自己負担金が必要であり義務教育就学前の通院は医療費の2割、入院では医療費の2割と食事療養標準負担額、義務教育就学後から70歳未満の通院は医療費の3割、入院は医療費の3割と食事療養標準負担額です。国民健康保険においては、扶養家族もすべて被保険者(加入本人)となっていますので家族療養費という名称のものはありません。
ここで問題点として高額療養費制度)があげられます。高額療養費制度は、公的医療保険において、医療費の患者負担分(自己負担金)が高額となる場合に、原則として申請により、患者の経済的負担が著しく大きくなりすぎないように一定の歯止めをかけてくれる制度をいいます。
具体的には、1つの医療機関の窓口で支払う自己負担金の1カ月の合計が一定額(自己負担限度額)を超えた場合、保険者(市区町村や健康保険組合)がその超えた分(高額療養費)を申請により後で払い戻してくれるという制度であります。この高額療養費制度のおかげで、医療費の自己負担額には自己負担限度額という上限が設定され、医療費の支払い額に歯止めがかかるという事です。しかしながら、高額療養費制度は後払いの制度という問題点3)があります、申請しても実際に支給されるのは3~4カ月以上かかります。その間は医療費を立て替えておく必要がありこれは、入院で限度額適用認定証を忘れた場合も同様です。また、高額療養費制度は自己申請の制度で自分が申請しなければ高額療養費として払い戻しされず、支給を受けることができる権利が時効消滅するまでには2年間しかありません。そのため申請されていない金額は数十億円に及ぶといわれています。

【療養費払い】
医療保険では、保険医療機関の窓口に被保険者証(保険証)提出して診療・歯科診療を受ける(現物給付の一種としての療養の給付)のが原則です。従って、保険の資格はあるが、被保険者証が手元にないため保険証を持たずに医療機関等で受診した場合、やむを得ない事情で非保険医(健康保険を取り扱っていない医療機関)を受診した場合などは、全額自費扱いとなり、窓口で医療費の全額を支払う形となります。ただし、所定の認められた場合であれば、いったん医療費を全額自己負担しますが、あとからその費用が払い戻される(これを療養費払いという)という制度があります。
先程、家族療養費の項で触れた現金給付の一種としての療養費の支給制度です。
療養費が受けられる主な例としては

  1. やむを得ず保険医療機関でない病院などで診療を受けたとき。
  2. 資格取得届の手続き中で保険証を提示できず、自己負担で診療を受けたとき。
  3. コルセット・メガネなどの治療用装具を医師の指示で作成し、装着したとき。
  4. 生血液の輸血を受けたとき。
  5. 海外の医療機関で診療を受けたとき。(治療を目的に海外に出向いた場合は対象外)
  6. 柔道整復師(整骨院・接骨院)から施術を受けたとき。
  7. はり・きゅう・マッサージの治療を医師の同意を得て受けた時。

などがあげられます。6.7.については、平成28年3月29日の厚生労働省の発表によりますと、柔道整復の施術に係る療養費に関する現状と課題4)として、支給基準に関する課題、審査に関する課題、長期・頻回・多部位対策、施術管理者の要件に関する課題、指導監査に関する課題、請求に関する問題、暴力団などによる療養費搾取事件などについて検討されています。また、あんまマッサージ指圧、はり・きゅうの施術に係る療養費に関する現状と課題5)として、支給基準に関する課題、施術所の登録管理・指導監督、受領委任制度に関する課題、給付対象に関する課題などが検討されている状況であります。

【まとめ】
日本の健康保険制度には、問題点も多少は存在するも日ごろ意識はしないが国民全体に健康に対する安心と信頼をもとに日々の生活の保障を担保するものである。しかしながら、この制度を維持していくためには、その原資の必要性に対する国民の理解、またこの制度の崩壊につながりかねない外資系の保険に対し注視していかなければならない。

参考文献
1)https://kotobank.jp/word/%E5%9B%BD%E6%B0…
2)hoken-kyokasho.com/kougaku-shinseihouhou
3)http://kokuho.k-solution.info/2006/05/post_14.html
4)www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai…/0000118219.pdf
5)www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai…/0000118215.pdf