4.10%消費税について

消費増税10%について

2019年2月28日 田中良彦

【 はじめに 】
先月開幕した通常国会で安倍晋三首相は「リーマン・ショック級の危機でない限り消費税率を10%に引き上げる」と宣言した。2014年4月に8%になってから5年半振りの増税であるが、第1部「消費増税10%について」ではこの増税が必要なのかについて論じ、第2部「控除対象外消費税について」では医療費等が非課税の扱いになっていることについて論じる。
なお、校友会HP「歯科界における諸問題のポイント」では2016年9月に「消費税と医療を考える」栗山聡著1)を発表掲載しているので、重複部分は省略する。

【 増税の歴史 】
1989年4月 3%で施行
1997年4月 5%に増税
2014年4月 8%に増税
2015年10月 増税延期
2017年4月 増税延期
2019年10月10%に増税予定
2012年6月に野田内閣は民主・自民・公明の3党合意2)の「社会保障と税の一体改革」で消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げることを決めた。しかし2014年11月に安倍首相は「来年の消費税10%への引き上げを延期し、2017年4月に確実に引き上げる」と表明し、衆議院を解散した。さらに2016年6月にはこの確実と言った2017年4月の引き上げも再延期した。これらの延期は世界経済の先行き不透明感を理由にしたが、まさに政争の具にして、選挙で勝ちたかったからに過ぎない。これは究極のポピュリズムである3)

【 景気腰折れ 】
今までの2回の消費増税では不況をもたらしたと言われている。1回目の1997年はアジア通貨危機と日本の金融危機が主な原因であったし、2回目の2014年は景気の停滞で不況突入とまでは言えない。しかし国民は重税感が増したわりには福祉などが充実したという実感はなかった。今回の引き上げが不況をもたらすとは思われない。駆け込み需要とその反動があるだろうが、2%と低率の引き上げであり、食品などの軽減税率の導入、幼児教育の無料化と住宅・自動車購入の税制優遇策などで景気の落ち込みを防ぐであろう。
さらに低所得者や子育て世帯を対象としたプレミアム商品券、キャッシュレス決算へのポイント還元のバラマキは効果が薄いと疑問視されているが、夏の参院選などをにらんだ選挙対策の色彩を帯びているのは間違えない。

【 消費税の問題点4) 
益税:免税業者(課税売上高1000万円以下)が販売する際に、消費者から消費税として徴収し、納税しない。簡易課税業者がみなし仕入率で計算して実際の仕入率の差が益税になる。
非課税:土地の譲渡及び貸付け 有価証券の譲渡 支払手段の譲渡 仮想通貨の譲渡 預貯金の利子及び保険料を対価とする役務の提供等 郵便切手類、印紙、証紙の譲渡 行政手数料等 外国為替業務に係る役務の提供 社会保険医療の給付等 介護保険サービスの提供 社会福祉事業等によるサービスの提供 助産 火葬料や埋葬料 一定の身体障害者用物品の譲渡や貸付け 授業料、入学検定料、入学金、施設設備費、在学証明手数料など 教科用図書の譲渡 住宅の貸付け
不課税:寄付金 祝金 試供品の提供 保険金・共済金 資産の廃棄・盗難・滅失 心身又は資産について加えられた損害の発生に伴い受ける損害賠償金 国外での取引
初めて消費税が導入されたときは、非課税取引は8項目であったが、現在は18項目に増えている。そして非課税・不課税取引の範囲、分類が困難である。
仕入税額免除:欧米ではインボイス(仕入税額が仕送状の記載)方式だが、日本では記帳(帳簿に記載)方式である。これは業者の反発を抑えるために認められた。
逆進性:消費者の消費税負担の割合は、高所得者より低所得者のほうが相対的に高い。そして食料品を軽減税率としても逆進性はほとんど変わらない。

【 解決方法 】
益税対策は免税業者をなくし、簡易課税制度を廃止する。
非課税・不課税取引の範囲を可能な限り狭くする。
仕入税額免除は2023年10月からインボイス方式に変わることが予定されている。
逆進性は増税によりさらに悪化するので、低所得者は増税分を所得税から控除し、所得のない者は還付申告で戻せるようにする。

【 考察 】
今後、増加していく高齢者の社会保険費をまかなう財源が消費税だとすると、ヨーロッパ諸国の税率20%、北欧諸国の25%に日本の税率も数年後になると思われる。今まで日本の財政を支えてきた団塊世代がリタイヤし、年金生活者となったために彼等から所得税を徴収できなくなったために消費税を増税することが必要になった。そこで明るい老後を暮らしたいので、消費税率を下げても税収を増やす方法があるのかを考察する。
現在の消費税は課税売上に税率を適用して、そこから課税仕入に際して負担した税額分を控除するので、その企業の付加価値に税率をかけた分を納税する方法である。これは累積課税を排除する方法として優れている。これを仕入に負担した税額分を排除せずに納税する方法に変更する。例えば税率を2%だとして品物を買った場合にすべての流通業者が必ず2%の消費税を支払った場合、生産者から卸業者が、それを二次卸が、それを小売業者が、最後に消費者がそれぞれ2%の消費税を納入する。そうすれば中間流通業者の数が多いほうが、価格にそれぞれの消費税が転嫁されるために小売値が高くなる。消費税は最終消費者が払うものとされているが、流通業者で分けて払えば増税されても負担が楽になる。
さらに厳格に徴収するためにはマイナンバーを用いたスマホ(デジタル)決済で同時に納税すれば徴収もれはなくなる。ただし、いつどこで誰が何を購入したかが税務署に筒抜けになる。

【 まとめ 】
消費税の致命的な欠陥はその逆進性である。しかし今後の高齢化、さらに人口減少を考えると消費税のように浅く広く徴収する税金は必要であるので、低所得者対策を万全にして実行すべきである。
政治家は選挙公約で「減税とバラマキ」を繰り返してきた。その結果、1000兆円の赤字国債を負うことになった。これ以上の借金を次の世代に背負わせるわけにはいかないので、今は社会保障等のサービス低下を我慢するしかない。
この少子高齢化、人口減少は30年以上前から予測されていたことだが、何の対策もされていなかった。私たち国民は国を任せる政治家の選択を誤ったのでしょうか。せめて30年後も同じ過ちを繰り返したくない。

【参考資料】
1)消費税と医療を考える栗山聡2016 校友会ホームページ歯科界における諸問題のポイント
2)3党合意社会保障・税一体改革に関する確認書平成24年6月15日
3)朝日新聞2018.10.31
4)日本の税金第3版三木義一岩波新書2018