指導・監査

平成27年12月28日
宮川慎二郎

【はじめに】
厚生局は医療機関の指導・監査を年々強化し、これにより返還請求は毎年増加しています。その中で特に新規開業医療機関は診療報酬請求の過誤が多く見られるために、平成 21年以降の新規開業医療機関は強化対象となり返還金が求められています。厳しくなっている指導・監査についてまとめてみました。

 【指導】
1)目的とその概要
指導の目的は、保険診療の質的向上及び適正化を図ることにあります。よって、保険診療の取扱い及び診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させることを主眼としており、医師会・歯科医師会及び薬剤師会と審査支払機関・保険者に協力を求め、円滑な実施に努めることとなっています。

2)実施形態と対象医療機関の選定基準
各指導の選定基準については各都道府県によって多少の違いはありますが、次のとおりとなっています。
①集団指導の選定基準
新規指定の保険医療機関等については、概ね1年以内にすべてを対象として実施する。
診療報酬の改定時における指導、保険医療機関等の指定更新時における指導と臨床研修病院等の指導、保険医等の新規登録時における指導等については、指導の目的・内容を勘案して選定する。
②集団的個別指導の選定基準
保険医療機関等の機能・診療科等を考慮した上で、診療報酬明細書の1件当たりの平均点数が高い保険医療機関等(取扱件数の少ない保険医療機関等は除く)について高い順に選定する。
1件当たりのレセプトが、概ね都道府県平均よりも病院にあっては1. 1倍以上、診療所にあっては1. 2倍以上で上位8%に相当する医療機関。
個別指導を受けた保険医療機関等については、翌年度及び翌々年度は集団的個別指導の対象から除く。
この選定基準を見る限り、診療報酬請求の単価が高い医療機関においては、集団的個別指導の対象機関となるばかりでなく個別指導の対象にもなることがわかります。
③個別指導の選定基準
支払基金等・保険者・被保険者等から診療内容または診療報酬の請求に関する情報の提供があり、都道府県個別指導が必要と認められた保険医療機関等。
個別指導の結果、指導後の措置が再指導であった保険医療機関等または経過観察であって、改善が認められない保険医療機関等。
監査の結果、戒告または注意を受けた保険医療機関等。
集団的個別指導の結果、指導対象となった大部分の診療報酬明細書について、適正を欠くものが認められた保険医療機関等。
集団的指導を受けた保険医療機関等のうち、翌年度の実績においてもなお高点数保険医療機関等に該当するもの。ただし集団的個別指導を受けた後、個別指導の選定基準のいずれかに該当するものとして個別指導を受けたものについてはこの限りでない。
正当な理由がなく集団的指導を拒否した保険医療機関等。
その他特に都道府県個別指導が必要と認められる保険医療機関等。

3)個別指導においての改善を求めた指摘事項
診療報酬の算定において基礎的な部分からの指導も多くみられたため、詳細な指摘事項としての注意文書も配布されました。以下は関東信越厚生局ホームページより抜粋した主な指摘事項です。
(1)診療に関する事項
①医学管理
歯科疾患管理料
・患者に提供する文書が所定の様式に準じていない
・管理計画書の写しが診療録に添付されていない
歯科衛生実地指導料
・歯科衛生士に対する歯科医師の指示内容等の要点が診療録に記載されていない
・歯科衛生士業務記録簿の記載内容が乏しい
②診療録の記載内容
診療録第1面の記載事項(主訴 傷病名 歯式 口腔内所見 開始 終了 転帰等)は的確に記載すること。
慢性歯周炎を傷病名欄に記載する際は、歯周炎の進行の度数を省略することなく記載すること。(P1 P2 P3と分けて部位ごとに記載)
う蝕症を傷病名欄に記載する際は、う蝕の度数を省略することなく記載すること。(C1 C2 C3と分けて部位ごとに記載)健康診断の結果に基づく時には算定できないので改めること。
(2)事務的取り扱いに係る事項
①届出事項の変更届については適切に行っていない例が認められたので改めること。
②院内掲示については適切に行っていない例が認められたので改めること。
届出事項(クラウン・ブリッジ維持管理料等・保険外併用療養費)
指摘内容の対応は診療録の記載と事務手続きに関する不備が起因となっている。特に診療録と各種届出、院内掲示については法令に則り適切に実施されているかをチェックすることが重要。
③診療録の記載不備
診療録は診療報酬請求の根拠となるため、保険診療に関する必要事項(症状、経過など)は、遅滞なく正確に記載することがポイント。
診療録の不適切な記載とは行間を空けた記載・欄外への記載等。
患者へ文書を交付することが算定要件となっている項目について、文書の写しを添付する。
④届出及び掲示事項の不備
届出事項の変更や厚生労働大臣の定める掲示事項が適切に行われているかに留意しなければならない。
保険医等の異動(常勤及び非常勤)、診療日及び診療時間の変更、施設基準の届出事項、明細書発行の有無、明細書発行の手続き・費用徴収の有無・費用徴収を行う場合の金額、保険外負担に関する事項、保険外併用療養費に関する事項等。

【監査】
1)対象先と取り消し処分
監査の目的は、診療報酬上の不正等に関する事実関係の把握にあります。よって指導と異なり不正請求等に該当する医療機関が対象となります。基本的には事前調査における診療報酬明細書をベースとし、実際に行われている医療行為なのか、実際の医療行為が適切に請求されているのか、実施回数は適切か、あるいは、施設基準に照らして当該要件を満たしているか(人的施設・設備等、実績等の要件)を中心にチェックしていくことになります。

2)対象となるケース
診療内容や診療報酬の請求で不正や著しい不当があったことを疑うに足りる理由があったとき。
度重なる個別指導によっても診療内容や診療報酬の請求に改善が見られないとき。
正当な理由なく個別指導を拒否したとき。
①書面調査と実地調査
監査担当者は、原則として監査を実施する前に診療報酬明細書による書面調査を行うとともに、必要と認められる場合には患者等に対する実地調査を行います。
②監査の仕組みと取り消し処分
監査に当たっては、監査対象となる保険医療機関等の開設者(又はこれに代わる者)及び管理者の出席を求めるほか、必要に応じて保険医もしくは保険薬剤師・診療報酬請求事務担当者・治療補助者その他の従業者又は関係者の出席を求めるとしています。つまり保険医療機関を管理する院長だけに留まらず、医療行為に関わった指示者(保険医)、指示受けた実施者(歯科衛生士他)、医療行為を点数化しレセプト請求を担当する者(診療報酬請求事務担当者)とすべての指示命令系統に関してその適切性をチェックする仕組みとなっています。

3)取り消し処分の判断基準
都道府県知事は、保険医療機関等文は保険医等が次のいずれか一つに該当するときには、当該都道府県の地方 社会保険医療協議会に諮問して、取消処分を行います。
故意に不正または不当な診療を行ったもの。
故意に不正または不当な診療報酬の請求を行ったもの。
重大な過失により、不正または不当な診療をしばしば行ったもの。
重大な過失により、不正または不当な診療報酬の請求を行ったもの。

【まとめ】
年々、指導・監査は厳しくなり返還金も多くなっています。これに対応する為には普段から正しいカルテ記載をすることが最も重要になります。高得点による指導に関してもカルテがしっかりと記載されていれば全く問題となりませんので萎縮診療にならないように気をつけて頂きたいと思います。このレポートが会員の皆様の明日からの診療の助けとなれば幸いです。