保険外併用療養と混合診療、患者申出療養

平成27年10月23日
橋本 博之

【はじめに】
現行保険制度では原則として保険診療と保険外診療を併用する事はできない。そのために保険診療分まで全額自己負担を求められるか、患者がそれまで保険診療を受けていた医療機関で保険外診療を希望しても断られたり、別の医療機関を受診するよう勧められたりする。そして希望した保険外診療を受ける事をあきらめざるを得ないという実情がある。この問題の解決策として保険外併用療養費制度(評価療養、選定療養)が2006年から施行された。しかし癌等の患者が国内未承認の薬を使用する時に早く受診したいと言う患者のニーズに必ずしも応えられていなかった。患者申出療養はこうした実態を改善する新制度として患者の切実な希望に応えられるよう創設された。

【保険外併用療養とは】
保険外併用療養とは保険診療と保険外診療が例外的に認められる場合において、そこで発生した費用を給付する制度。通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用は、一般の保険診療と同様に扱われ、その部分については一部負担金を支払うこととなり、残りの金額は保険外併用療養費として医療保険から給付が行われる。

【混合診療とは】
混合診療は明確な定義はないが、保険診療と保険外診療が混在する、あるいは保険給付と保険外の患者負担が混在することを混合診療と呼ぶ。厚生労働省は日本国内での「保険診療と保険外診療の併用」としている。日本医師会によれば『保険診療と保険診療外の診療行為自体の混在ではなく、日本の国民皆保険体制の公的医療保険制度の主幹システムである「医療の現物給付」の中での「費用の混在」(一部負担金を含む保険給付と保険外の患者負担との混合)を指す』とされる。

【患者申出療養制度とは】
平成28年4月に施行予定の患者申出療養は、中医協での論議を経て、9月に制度の詳細がまとめられ、10月以降に、関連する省令、告示などが改正される。
患者申出療養は、国内未承認の診療行為や医薬品について、患者申出を起点として、速やかに保険外併用療養費制度の対象として施行する。一定の安全性・有効性が確認できる診療行為や医薬品を迅速に制度の対象とすることで、患者の医療二―ズに応えるものである。
具体的には、①患者申出療養の「前例がない」場合は、患者が医療法に基づく臨床研修中核病院や特定機能病院に実施を申し出、それにもとづき医療機関が国に申請。国は原則6週間以内に実施の可否を判断する。②「前例がある」場合は、患者の身近な医療機関の実施体制を審査し、原則2週間以内に可否を判定する。

厚生労働省は、

  1. 患者申出療養におけるインフォームド・コンセントの内容・手続き
  2. 臨床研修中核病院および特定機能病院の申し出や相談の応需体制
  3. 実施可能が医療機関の考え方
  4. 患者申出療養に関する会議の具体的な進め方
  5. 有害事象発生時の対処方法
  6. 実施計画対象外の患者からの申し出にかかる国の審査のあり方
  7. 報告

以上の運用上の課題に対し論点として提示している。

【歯科における混合診療】
現在の日本の健康保険制度では保険診療と保険外診療を併用することは原則として禁止されている。ただし、保険診療と保険外診療が混在することは、次の二点に関して認められている。
1.保険外併用療養費制度には「評価療養」と「選定療養」がある。「評価療養」は高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって保険適用を評価する必要のあるもの。「選定療養」は患者さんの選択を広げる意味合いで、特別の病室の提供などについて認められているもの。歯科では前歯の金合金等、金属床総義歯、予約診療、時間外診療、小児う触の指導管理などがある。
2.歯科通知文に係るものに次の事項が認められた。
保険給付外の材料等による歯冠修復及び欠損補綴は保険給付外の治療となるが、この取扱いは、歯及び口腔に対する治療体系が細分化されている歯科治療の特殊性に鑑み、当該治療を患者が希望した場合に限り、歯冠修復にあっては歯冠形成(支台築造を含む。)以降、欠損補綴にあっては補綴時診断以降を、保険給付外の扱いとする。その際に、当該治療を行った場合は、診療録に自費診療への移行等や当該部位に係る保険診療が完結している旨が判るように明確に記載する。
なお、従来あった所謂昭和51年管理官通知(「歯科領域における保険給付外等の範囲について」(昭和51年7月29日保文発第352号))は、平成26年度診療報酬改定において廃止され局長通達に格上げされた。
日本の保険制度では健康保険でできる診療行為が限定され、医療の一部分しか給付されない。医療技術や医療機器の進歩や新薬の登場も保険制度の種々の制約から保険に直ちには反映されない。そこで混合診療が常に問題となることになる。平成23年10月の最高裁の混合診療原則禁止は適法との判決があったが、TPPでの混合診療解禁問題については継続審議とされ非常に様々な議論がある。

【まとめ】
混合診療禁止の保険診療ルールは、命、健康、安全を守る社会的規制であり必須であると思う。患者申出療養の必要条件は安全性、有効性が担保されていること。将来保険収載を前提としていることであるが、歯科の対象は少ないと思われる。