7.レセプト電子化について

2019年5月16日 常務理事 大井 了

【はじめに】
レセプト電子化とは、レセプト(診療報酬明細書)のオンライン請求の義務化を指す。「レセプトオンライン化」ともいう。2006年4月10日付けの厚生労働省通知(療養の給付、老人医療及び公費負担医療に関する費用の請求に関する省令の一部を改正する省令の施行について)により、2011年度から、一部の例外を除きすべての医療機関(病院、診療所、薬局)はオンラインによるレセプトの請求が義務づけられることになった。この一部の例外とは、レセプトを手書きで作成していること、(ただし電子レセプト請求ができるように努めることが条件)常勤の保険医・歯科保険医が2011年4月1日時点で65歳以上の場合は、審査支払機関に免除届を提出することで、書面による請求を行うことができることである。
保険医療機関又は保険薬局が、電子レセプトをオンライン又は電子媒体により審査支払機関に提出し、審査支払機関において、受付、審査及び請求支払業務を行い、保険者が受け取る仕組みで、保険医療機関・保険薬局、審査支払機関及び保険者を通じて一貫した整合性のあるシステムを構築し、業務量の軽減と事務処理の迅速化を実現することを目的としている。このことによりすべての医療機関・審査機関・支払い側3者にメリットがあるといわれた。

【レセプト電子化の概要】
従前は、この医療費の請求を紙のレセプトで行っていたが、保険医療機関・保険薬局、審査支払機関、保険者の医療保険関係者すべての事務の効率化の観点から「レセプト電算処理システム」が構築され、現在では、ほとんど電子レセプトによる請求となっている。
電子レセプトとは、紙レセプトのように、定められた様式の所定の場所に、漢字やカナ、アルファベットによって傷病名や診療行為を記録(記載)する方法と異なり、厚生労働省が定めた規格・方式(記録条件仕様)に基づきレセプト電算処理マスターコードを使って、CSV形式のテキストで電子的に記録されたレセプトのことを言う。電子レセプトは、コンピュータで扱うフォーマットであり、保険医療機関・保険薬局、審査支払機関及び保険者に共通仕様となっている。

【オンライン請求システムと電子媒体による請求システム】
オンライン請求システムは、保険医療機関・保険薬局と審査支払機関、審査支払機関と保険者等を、全国規模のネットワーク回線で結び、レセプト電算処理システムにおける診療報酬等の請求データ(レセプトデータ)をオンラインで受け渡す仕組みを整備したシステムである。
このオンライン請求システムのネットワーク、オンライン専用の認証局及び基本的なソフトウエアの構築については、支払基金と国保中央会が共同で基盤整備を行っている。オンライン請求で使用する電気通信回線は、厚生労働省からの通知により、「ISDN回線を利用したダイヤルアップ接続または、閉域IP網を利用したIP-VPN接続、または、オープンなネットワークにおいてはIPsecとIKEを組み合わせた接続」によるものとされている。また、オンライン請求に関するセキュリティーについては、厚生労働省からの通知により、電子証明書による相手認証及びデータの暗号化対策、ID・パスワードによる厳格なユーザ管理を行うなどセキュリティー対策を十分講じることとされている。
電子媒体による請求システムは、レセプトコンピュータを導入し、レセプト請求用のファイルを作成し、それをフロッピ-ディスクやCD-R(光ディスク)などに書き込んで、支払基金や国保連合会へ郵送することになる。

【2019年1月分請求状況(医療機関・薬局数ベース)】
歯科68,976機関数のうち電子レセプト請求しているのは61,377機関(89.0%)、その中でオンライン請求数は11,852 機関(17.2%)、電子媒体による請求数は49,525機関(71.8%)、紙レセプトによる請求数は7,599機関(11%)となっている。
病院、診療所を含む医科全体93,885機関数のうち電子レセプト請求数は89,224機関(95%)、その中でオンライン請求数は63,916 機関(68.1%)、電子媒体による請求数は25,308機関(27.0%)、紙レセプトによる請求数は4,661機関(5.0%)となっている。調剤では57,830薬局数のうち電子レセプト請求数は56,563薬局(97.8%)、その中でオンライン請求数は56,021 薬局(96.9%)、電子媒体による請求数は542薬局(0.9%)、紙レセプトによる請求数は1,267薬局(2.2%)となっていて、いずれも歯科と比べて高いオンラインでの請求率となっている。

【医科の電子レセプト請求と歯科の電子レセプト請求】
2001年日本医師会は、日医IT化宣言として医療現場のIT化を進めるため、土台となるネットワークづくりを行うことを宣言した。この宣言は、まず各医療現場に標準化されたオンライン診療レセプトシステムを導入し、互換性のある医療情報をやりとりできるようにする計画(ORCA、Online Receipt Computer Advantage)を推進し、この計画のために日医が開発したプログラムやデータベースはすべて無償で公開する。医療現場の事務作業の効率化を図り、コストを軽減させると同時に、誰もが自由に利用できる開放的なネットワークを形成し、国民に高度で良質な医療を提供することをめざすとされている。
一方日本歯科医師会では、レセプト電算処理検討委員会をはじめ多くの執行部が検討を重ね、薬科・医科が電子化に対応していく中で国と折衝し会員が対応できるよう落としどころを模索し、当時日本歯科医師会の担当副会長であった、近藤勝洪校友会会長が中心となって進められていった。
また年齢制限や枚数制限、補助金の得方・使い方など会員に周知する一方で医科のようなオルカプロジェクトを模索した。日歯もレセックというASP型レセコンを出したが多くの会員は現状システムをバージョンアップすることを選択した。時間の制限や記録条件使用がレセコン業者に周知されたため各社で思いのまま基本部分を作りこんだことや費用対効果の問題があり、個々の歯科医院で対応せざるを得なかった。このことが歯科ではオンライン請求より電子媒体請求が多い一因であると考える。

【まとめ】
2006年、省令により診療報酬の請求方法としてオンラインによる方法が追加された。また、支払基金から保険者に対しても、厚生労働省の通知により2007年にオンライン請求が開始された。こうした流れは、医療保険事務の効率化を主目的とし、2011年を目標にオンライン請求による全医療機関の電子化が図られたが完全電子化とはなっていない。全体の医療機関数・薬局数での電子レセプト請求は93.9%、オンラインが59.7%、電子媒体が34.2%、紙レセプトが6.1%となっている。薬局ではオンライン請求数が96.9%となっているのに比べて、歯科でのオンライン請求数は17.2%に留まっている。つまり多くの歯科医療機関が、レセプトコンピュータを導入し、レセプト請求用のファイルを作成しておきながら、わざわざそれをフロッピ-ディスクやCD-Rなどに書き込んで、支払基金や国保連合会へ郵送している現状が見えてくる。今の時代インターネットへの接続環境がないという理由はほぼありえないと思う。
そこには歯科におけるオンライン請求のデメリットが存在する。レセプトのオンライン請求義務化への移行期間が短かったこと、システム開発のベンダーが多数ありそれぞれの共通性がないこと、一医療機関の請求件数が少ないこと等が導入への妨げとなってしまったと思われる。
では逆に、現状のオンライン請求のメリットと考えられるのは、審査機関では審査終了後のレセプトを再入力してデータ化していた作業が省け、事務点検では機械審査が可能で支部間格差解消になる。保険者では、再審査がしやすく縦覧審査や医療機関間での投薬回数などの患者毎のデータベース作成ができる。医療機関では、他の二者ほどのメリットはないが、レセプトの受付時間が延長され、事前チェックができ安全性が確保される。審査後の増減点連絡書データをダウンロードできて、審査後の返戻レセプトデータをダウンロードできる。国では容易にデータベースを蓄積しやすく、再利用可能なデータを集めやすい、などが考えられる。
令和元年10月1日から施行される「医療情報化支援基金の創設」において「マイナンバーによるヘルスデータ環境作り」の際、我々歯科医療機関側にも移行しやすい支援を得られるような環境作りが急務であると思う。そうすれば歯科医療機関側もオンライン請求の導入を今一度考慮するに値するかもしれない。

[参考文献]
社会保険診療報酬支払基金HP
https://www.ssk.or.jp/index.html
日本歯科医師会HP
日本医師会HP