6.高額療養費制度

高額療養費について

平成31年4月11日  奥沢康彦

【 はじめに 】
高額療養費とは、健康保険法に基づき、日本において保険医療機関の窓口で支払う医療費を一定額以下にとどめる、公的医療保険制度における給付のひとつである。1973年(昭和48年)の医療制度改革によって始まった。原則として、保険者に対し高額療養費支給申請書を提出することで自己負担限度額を超えた額が後に支給されるが、所定の要件を満たせば支給申請書を提出しなくても自動的に支給される制度(現物給付もしくは保険者の側で計算)もある。

 【 支給要件 】
歴月(月の初めから終わりまでの1か月間)で自己負担額を合算し、自己負担限度額を超えた金額について、保険者(全国健康保険協会、健康保険組合、区市町村等)によって支給される。部屋代等の特別料金、歯科材料における特別料金、先進医療の先進技術部分、自費診療を受けて償還払いを受けた場合における算定費用額を超える部分など、保険外の負担については対象外となる。また保険給付であっても定額制(標準負担額)である入院時の食事療法や生活療養も対象外である。

 【 高額療養費の現物給付化 】
2007年4月より入院療養について、2012年4月より外来診療に対して、高額療養費が現物給付化された。従来の制度では一部負担額を支払った後、保険者に高額療養費の申請を行うという形であったが、現在では70歳未満の被保険者70歳以上の低所得者はあらかじめ保険者に高額療養費限度額適用認定証の申請を行い、交付された限度額認定証を医療機関に提示することによって、後ほど償還される高額療養費を見越した自己負担限度額のみの支払いで済むようになった。
平成30年8月診療分から、70歳以上のうち所得区分が現役並みⅠ、現役並みⅡは健康保険証、高齢受給者証、限度額適用認定証の3点を医療機関窓口に提示することで自己負担限度額までの支払いとなる。所得区分が一般、現役並みⅢは、健康保険証、高齢受給者証を医療機関窓口に提示することで自己負担までの支払いとなる。

 【 高額療養費貸付制度・委任払い制度 】
上述の現物給付を受けない場合、一度病院窓口で一部負担金を支払わなければならず、受診から高額療養費の支給を受けるまで通常3か月程度かかる。金銭的な余裕がない場合は、後ほど償還される高額療養費を担保とし融資を受けることができる貸付制度、はじめから還付額を見越した自己負担限度額のみ支払いする委任払い制度が利用できる場合がある。

 【 自己負担限度額 】
高額療養費の支給要件、支給額その他高額療養費の支給に関して必要な事項は、療養に必要な費用の負担の家計に与える影響及び療養に要した費用の額を考慮して、政令で定める。
被保険者または被扶養者が同月内に同一医療機関に支払った自己負担額が自己負担限度額(高額療養費算定基準額)を超えた場合に、その超えた額が支給される。70歳未満と70歳以上で、それぞれ計算方式が異なる。

70歳未満
平成27年1月より3段階から5段階へ細分化されることになった。

  • 区分ア(年収1,160万円以上):252,600円+(10割相当医療費-842,000円)×1%
  • 区分イ(年収770万以上1160万円未満):167,400円+(10割相当医療費-558,000円)×1%
  • 区分ウ(年収370万円以上770万円未満):80,100円+(10割相当医療費-267,000円)×1%
  • 区分エ(年収370万円未満):57,600円
  • 区分オ(低所得者):35,400円

70歳以上
70歳以上の者の上限額は平成29年8月から段階的に引き上げを行っていて、平成30年8月以降診療についての上限額は以下の通りとなる。75歳以上は後期高齢者医療制度から支給されるが、計算方式は同じである。

外来診療

  • 現役並み所得者Ⅲ:252,600円+(10割相当医療費-842,000円)×1%
  • 現役並み所得者Ⅱ:167,400円+(10割相当医療費-558,000円)×1%
  • 現役並み所得者Ⅰ:80,100円+(10割相当医療費-267,000円)×1%
  • 一般:18,000円
  • 低所得者Ⅱ:8,000円
  • 低所得者Ⅰ:8000円

70歳以上の高額療養費制度の見直しについて(1)

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多数回該当
直近1年以内に高額療養費給付に該当する回数月が3回以上ある場合、4回目以降は自己負担限度額がさらに引き下げられる。

世帯合算
同一世帯で同一月内に同一医療機関に支払った自己負担額が21000円以上となった被保険者や被扶養者が2人以上いる場合は自己負担額を合算して上記の自己負担限度額を超えた場合も払い戻される。ただし、夫婦であっても共に被保険者である場合には両者の自己負担額は合算されず、また同一世帯であっても協会けんぽ、健康保険組合、船員保険、後期高齢者医療制度等、異なる保険者・制度間では合算できない。

 【 70歳以上の外来療養にかかる年間の高額療養費 】
基準日(7月31日)時点の所得区分が、一般区分または低所得区分に該当する場合は、計算期間(前年8月1日~7月31日までの期間)のうち、一般区分または低所得区分であった月の1年間の外来療養の自己負担額の合計が14万4千円を超えた場合、その超えた金額が支給される。

 【 長期高額疾病 】
・人工腎臓を実施している慢性腎不全(人工透析治療)
・血友病
・抗ウイルス剤を投与している後天性免疫不全症候群(HIⅤ感染者)
以上の疾患(特定疾患)に係る療養を受ける者については、自己負担限度額は1万円となる。ただし、人工透析を要する区分ア・イの者及びその被扶養者・同一世帯所属者については自己負担限度額2万円となる。

 【 高額介護合算療養費 】
前年の8月1日~当年の7月31日までの1年間における、公的医療保険の自己負担額(高額療養費が支給される場合は、その支給額を除いた額)と、介護保険の利用者負担額の年間の合計額が著しく高額であるときに、一定の自己負担限度額を超える分が支給される。なお、公的医療保険・介護保険のいずれか一方の自己負担額が0円である場合は支給されない。また、(利用者負担額―自己負担限度額)が支給基準額を超えない場合には支給されない。

 【 考察 】
高額療養費の財政規模は2013年(平成25年)度では2兆2200億円ほどであり、国民医療費40.1兆円の5%程度を占めている。なお、2017年(平成29年)度の国民医療費は41兆円で、歯科は6.9%・2兆9,152億円、耳鼻科が4.9%・2兆2000億円で、財政規模的には近い。
医療費削減の必要から、ここ数年自己負担限度額の引き上げが行われてきている。高齢者と若者の間での世帯間公平が図られるように、負担能力に応じた負担を図るために、特に支出の多い70歳以上での変更が行われてきた。
一方、高額療養費制度の本来の目的である、医療費の家計負担が重くならないように医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が少なくなるように、上限額を引き下げる方策も講じられてきた。そのため、この制度が被保険者にも医療者にも分かりづらくなっているのではなかろうか。もう一度、制度を整理して分かりやすいものにしていただければと思う次第である。

〈参考資料〉
1.厚生労働省保険局HP
高額療養費制度を利用される皆さまへ
高額療養費制度の見直しについて(概要):70歳以上の高額療養費制度の見直し(1)
平成29年度医療費の動向
2.ウイキペディア
高額療養費
3.全国健康保険協会
高額療養費
4.Weblio辞書
5.日本大百科全書(ニッポニカ)