5.療養費払いと償還払い

療養費払いと償還払い

                                                    2019年4月4日 佐藤全孝

【はじめに】
療養費とは、健康保険法等を根拠に、日本の公的医療保険制度において、被保険者が負担した療養の費用を後で現物給付にて行うものである。日本の保険医療では、療養の給付(現物給付)を原則としており、保険証を窓口で提示することで一部負担金の支払いのみで療養の給付を受けることができる(受領委任払い)。また保険証を提出できない等により療養の給付を受けられない場合、療養の費用は全額自己負担となる。しかし所定の要件に該当する場合、保険者に申請することにより、本来療養の給付等として現物給付されるべきである額を償還払い(現金給付)で受けることができる。他の公的医療保険(船員保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度、共済組合等)でも内容はほぼ同一である。

【療養費払い】
療養費が支給されるのは、就職直後に資格取得の手続き中で保険証がない場合や旅行先などで保険証を持たずに診療を受けたり、やむをえず保険診療を受けられない医療機関にかかった場合、さらに医師が必要と認めた義手、義足、義眼、コルセットなどを装着した場合、柔道整復師から施術を受けた場合などである。また全額自己負担して支払った医療費のうち、自己負担分を差し引いた金額である。結果的に、保険証を提示して診療を受ける「療養の給付」と、費用負担は同等となる。支払い方法は、医療サービスを利用した被保険者がいったん全額を支払った後、保険者に対し支給申請の手続きを行い、支給を受けるという償還払いが一般的である。柔道整復の場合には、例外的に受領委任という方法がとられることがある。これは柔道整復師が被保険者に代わって残りの費用を保険者に請求できるもので、被保険者は医療サービス利用時に自己負担分を支払うだけですむものである。

 【療養費の時効】
健康保険の他の給付と同じく療養費の支給を受ける権利(申請期間)は、2年を経過したときは時効により消滅する。時効の起算日は、療養に要した費用を支払った日の翌日である。
・療養費払い制(医療費償還制)
一般に社会保障制度上の医療に関する給付の方法としては、療養費払い制(金銭給付)と療養の給付制(現物給付)がある。療養費払い制は、受診費支払後に医師の領収書に基づき被保険者に医療費を給付する方式である。事前にお金がないと医者にかかれず受診制限を招くことになる。日本では例外的(緊急医療,家族療養費等)にのみ採用される。
・立て替え払い→療養費として払い戻し
旅先で急病になったり、保険証を持っていないときは、とりあえずその場で医療費の全額を自分で払わなければならない。その後、健康保険組合に申請して払い戻しを受けることになる。このように、事後の健康保険からの払い戻しを前提に費用の全額を支払うことを「立て替え払い」といい、健康保険からの払い戻しによる現金給付を「療養費」という。
療養費として払い戻されるのは、療養の給付と同様の7割相当額(3歳未満の乳幼児は8割相当額)となるが、ここで注意しなくてはならないのは、払い戻される額は「療養の給付の範囲内」に限られることです。やむを得ず保険医以外の医療機関にかかった場合など、医療費が高額な「医師の言い値」になることも珍しいことではないが、そういった「言い値の部分」は、療養費として払い戻されることはない。また、通常の保険診療と同様に、入院時の食事にかかる標準負担額は自己負担となる。いずれにしても、療養費を請求するときは領収書が必要のため、必ずもらっておく必要がある。

【償還払い】
介護サービスや医療サービスの利用者が、サービス提供事業者に費用をいったん全額支払い、その後自治体などに申請して払い戻しを受けること。
・償還払いと自動償還払い
役所に出向いて領収書提出などの手続きが必要な償還払いと、事前登録を済ませておけば医療機関で支払った額が自動的にデータ蓄積され、補助分が銀行口座などに返還される自動償還払いがある。
・償還払いの申請
利用者が費用の全額をサービス提供事業者にいったん支払い、その後、申請を行い保険者である市区町村から、その費用の9割分の現金の償還(払い戻し)を受けること。
福祉用具購入費、住宅改修費、高額介護サービス費の支給(給付)を受ける場合、やむを得ない理由で要介護認定(要支援の認定を含む)の申請前にサービスを利用した場合、ケアプランを作成しないでサービスを利用した場合や計画以外のサービスを利用した場合、介護保険被保険者証を提示しないでサービスを利用した場合などは、償還払いの対象となる。介護サービスや医療サービスの利用者が、サービス提供事業者に費用をいったん全額支払い、その後自治体などに申請して払い戻しを受けること。償還払いの申請は、加入している保険者に対して行うので、国民健康保険であれば市区町村役場の国民健康保険担当課、社会保険であれば勤務している事業所を経由して社会保険事務所、健康保険組合であれば勤務している事業所を経由して健康保険組合などのような加入している保険者に領収書を添付して請求することになる。申請後、審査を経て償還される金額は、直接請求者に現金か口座払いで支払われる。保険者が医療機関に医療費を支払うのと同じように、被保険者に医療費を支払うもの。
メリットについては、本来であれば保険給付を適用させて、自己負担割合に応じた額(医療費の2・3割)を支払えばそれで終わりであるが、制度上保険給付の適用が受けられない場合に、いったん全額を支払い、償還払いによって保険適用後の自己負担額の負担と同様にすることになる。
請求方法は、いったん医療費の全額を支払うので、その領収書と印鑑を持参して、保険者に請求する。償還払いの種類は、コルセットや治療用補装具代、保険証を持たず診療を受けた場合、入院時の食事代が減額になった場合の差額、などがある。いずれも、制度上保険適用が出来ないので、償還払いによって保険適用をさせた形に自己負担額を清算するものである。また子どもが医療機関を受診した際、健康保険の自己負担額の3割(就学前は2割)を窓口で支払い、あとで手続きすれば県や市区町村から補助分が戻る。一旦医療費を立て替える必要があるため、保護者の負担が大きいと指摘されている。

【療養費の金額】
療養費の金額は、当該療養(食事療養及び生活療養を除く)について算定した費用の額から、その額に一部負担金の区分に応じて定める割合を乗じて得た額を控除した額及び当該食事療養又は生活療養について、算定した費用の額から食事療養標準負担額又は生活療養標準負担額を控除した額を基準として、保険者が定める。制度上は、必ずしも窓口で支払った金額から一部負担金額を控除した額が支給されるとは限らない。

【柔道整復における療養費支給対象】
柔道整復における療養費の支給対象となる疾患は、急性または亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲(急性または亜急性の介達外力による筋、腱の断裂を含む。)、捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれない。このうち骨折及び脱臼については、応急手当の場合を除き、医師の同意が必要である(柔道整復師法17条)。ただし、通達により、実際に医師から施術について同意を得た旨が、施術録に記載してあることが認められれば、必ずしも医師の同意書の添付を要しないものとされ、さらに、「施術録に記載してあることが認められれば」とあるのは、給付支給事務取扱上いちいち保険者において、施術録を調査した後でなければ支給を行ってはならないという意味ではなく、疑わしいものについて調査を行う場合を予想するものであるとされている。

【まとめ】
これらの制度には問題点がある。 請求方法・不正の発生ついて、償還払いは患者(被保険者)が請求する。一方、代理受領、受領委任については、施術所等が請求する。患者(被保険者)が請求するよりも、施術所等が請求(代理受領・受領委任)した方が、架空請求や水増し請求が増えるとの指摘がある。給付費については、施術所で患者が全額負担する(償還払い)よりも、一部負担する(代理受領・受領委任)方が、給付費が増えるとの指摘がある。 また患者の利便性の観点からは、施術所で患者が全額負担する(償還払い)よりも、一部負担する(代理受領委任)方が、利便性が高いと考えられる。 柔道整復療養費の受領委任制度について、問題のある一部の患者について償還払いに戻すことについては今後の検討課題とされている。保険者の裁量については、 過去の判例において、いかなる支給方法にするかについては、保険者の合理的な裁量に委ねられているとされている。また受領委任制度については、保険者が委任しなければ受領委任制度は成立しないため地方厚生(支)局長・都道府県知事に委任をすることが、端緒とされている。これらの問題点を十分な議論を重ねて、速やかに対応していくことが望ましい。

<参考資料>
1、厚生労働省HP(あ-4)
2、ウィキペディア
3、goo辞書
4、weblio辞書
5、日本大百科全書(ニッポニカ)
6、コトバンク
7、観光産業保険組合HP