1.介護保険

介護保険制度

2019年1月15日 薄葉博史

【はじめに】
平成12年(2000年)4月から施行された、要介護高齢者を社会保険の仕組みによって社会全体で支える制度。原則として、65才以上の高齢者が市区町村に申請して要介護認定を受け、その度合いに応じたケアプランを作成して、在宅サービスや施設サービスを受けることができる。保険料を徴収して、制度を運営する主体(保険者)は市区町村となる。
保険料を支払う被保険者は40才以上で、65才以上を第1号被保険者、40才から64才迄を第2号被保険者に区分されている。第2号被保険者も特定疾病については、サービスを受けることもできる。利用者は原則として、介護費用の1割を自己負担し、残りの9割については、保険料と公費で折半されている。(第1号保険料は、市区町村が利用される介護サービス量を推計し3年ごとに決める。自己負担は原則1割であるが、高所得者は2割となっている。2018年8月より一部利用者の負担割合が3割に引き上げられている。)

【制度制定の目的・背景】
介護保険法制定前の高齢者介護は、老人福祉と老人保健医療の二つの体系で行われていたため、利用手続きや費用負担において不均衡が生じていたほか、老人福祉については、行政がサービスの種類や提供機関を決めるため、利用者がサービスを選択することができない。保険医療においては、一般病院への長期入院(いわゆる社会的入院)など、医療資源の非効率的な利用などの問題が生じていた。
介護保険では、この2制度を再編して、給付と負担の関係が明確な社会保険方式で、社会全体で介護を支える仕組みを創設し、保健・医療・介護サービスが利用者の選択により利用できる体制の構築である。

【制度創設から18年を経過して】
平成12年4月の制度創設から、18年を経過して(平成12年4月末から平成30年4月末まで)65才以上の第1号被保険者数は、2,165万人から3,492万人と1.6倍になり、要介護(要支援)認定者数は、218万人が644万人と3.0倍に増加している。このうち要支援1・2と要介護1は、3.64倍に、要介護2は2.86倍、要介護3は2.70倍、要介護4は2.33倍、要介護5は2.08倍となっており、軽度の認定者数の増加が大きい。また、近年増加のペースが拡大している。
今後、総人口が減少に転じるなか、高齢者(特に後期高齢者)の占める割合は更に増加すると予想される。(2025年には65才以上が3,677万人で総人口の30.0%75才以上が2,180万人17.8%)

【制度改正の経過】
平成12年4月の介護保険法施行以来これまでに5回の改正が行われている。
主なものとして
平成17年改正(平成18年4月等施行)
○介護予防の重視
○施設給付の見直し
平成20年改正(平成21年5月施行)
○介護サービス事業者の法令遵守等の業務体制管理の整備
平成23年改正(平成24年4月等施行)
○地域包括ケアの推進
平成26年改正(平成27年等施行)
○地域支援事業の充実
○全国一律の予防給付を市区町村が取り組む地域支援事業に移行し多様化
○低所得の第1号保険者の保険料軽減割合を拡大
○一定以上の所得のある利用者の自己負担引き上げ
平成29年改正(平成30年4月等施行)
○自立支援・重度化防止の仕組みの制度化
○介護医療院の創設
○所得の高い利用者負担割合の見直し(2割から3割へ)介護納付金の総報酬割導入

【歯科との関わり】
訪問歯科診療を行った後、必要に応じて要介護者に対して居宅療養管理指導を行うことができる。具体的には、口腔の状況により管理指導が必要な場合は、ケアプラン作成に必要な情報を提供すると共に、口腔衛生に関する必要事項を要介護者と家族に対して指導し、口腔ケアを行う。口腔ケアは口腔だけの問題ではなく、QOLの向上にも有効な手段であるからです。また、近年の健康保険の改定においては、訪問診療に係わる施設基準も含まれているので介護保険との関連にも注意しなくてはならない。
この他に、ケアマネージャーの資格を取ってケアプランの作成等に携わっている方や、地区歯科医師会を通して介護認定審査会の審査委員を務めている方もいる。介護認定審査会においては「かかりつけ医の意見書」が重要な役割を持っているが、歯科医師は意見書を書くことはできない。しかし、この中に歯科に関する3項目(口腔清掃・嚥下・食事摂取)が含まれているので歯科医師の役割は大きいと思われる。

【これからの問題点】
超高齢社会に既になっているが、65才以上の高齢者数は2020年には3,619万人で人口割合では28.9%75才以上では1,872万人14.9%となる。これが、2025年には65才以上が3,677万人30.0%、75才以上は2,180万人となり、2055年には65才以上が3,704万人38%、75才以上は2,446万人25.1%を占めるまでになる。65才以上の人口ピークは2042年3,935万人である。
これに対して、生産者人口は減少するので、第2号被保険者数は減少する。また、認知症高齢者数の増加や世帯主が65才以上の単独世帯や夫婦のみの世帯も増加する。さらに、都市部では75才以上の人口は急激に増加し、もともと高齢者人口の多い地方でも緩やかに増加してゆく。
目的や背景でも述べているように、18年間で介護保険の利用者数は急激に増加している。現在は第2号被保険者が40才からとなっているが、この範囲を広げて国民全体で支え合うという理念に基づくならば、年齢の引き下げも必要ではないか。また、健康保険組合の経営を圧迫している老齢拠出金のあり方についても考慮する必要があるのではないか。

参考資料
1.公的介護保険制度の現状と今後の役割 平成30年度 厚生労働省 老健局
2.朝日新聞出版「知恵蔵」
3.小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)