「個人情報保護法と医療等ID」について

平成27年5月21日
薄葉 博史

【はじめに】
日本医師会・日本歯科医師会・日本薬剤師会は、平成26年11月「医療等IDに係わる法制度整備等に関する三師会声明」を発表し、マイナンバーと異なる医療等IDの必要性とマイナンバーカードへの健康保険証等の医療情報の取り込みに反対の意見声明を発表した。このことを含めて、以下のように検証してみた。

【守秘義務があるのに、個人情報保護法が別途必要になるのは】
守秘義務は、歯科医師や医療従事者個人に課せられた義務であり、刑法134条1項に記載されているほか、歯科医師法・歯科衛生士法等にも記載されている。主体は医療従事者となる。個人情報保護法では、「患者の同意をもって情報を使える権利」であり、主体は患者である。
守秘義務は、歯科医師等「個人」に課せられた義務であるのに対して、個人情報保護法は、医療機関という「事業主体」に課せられている。処罰については民法に分類される。情報を管理するのはあくまでも医療機関であるが、医療情報が含まれる情報を取り扱うICT関係事業者が含まれていないことに問題がある。

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【個人情報保護法とは】
個人情報保護法は、平成15年5月の法案制定時に「より高度な個人情報の保護が必要な分野については、個別法を早急に検討する」とする付帯決議が衆参両院でなされている。そして、これらを議論することなく平成17年4月に全面施行された。その後、多少の法令改正を行ってはいるが、その様ななか、内閣府では本年度の通常国会で個人情報保護法の全体法を改正し、平成27年10月に社会保障と税番号制度(マイナンバー制度)を開始するとされている。
個人情報保護法の全体法を管轄するのは、内閣府の消費者庁であり、個別の分野においてはそれぞれの省庁があたるとされており、行政の縦割りがそのままとなっているために、責任の所在も不明確である。分野ごとに主務大臣制をひき、ガイドラインを設けることになっていて、ほとんどの主務官庁では告示がなされている。しかし、医療分野においては研究分野だけが告示であり、厚生労働省管轄の医療・介護・国民健康保険に関する分野は局長通達で済まされている現状である。

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【マイナンバー制度とは】
個人情報保護法に基づいて、国民1人1人の個人データーを一括管理する制度である。以前言われていた納税等に関する国民総背番号制度に、消えた年金記録の問題が生じたために個人情報を一括管理するだけでなく、企業等の事業者にも番号付けを行い、データーベースで管理される。今までは、縦割りで行われていた情報が横にもつながることで、他の分野でも閲覧することができる。
医療においては、医療・介護の分野だけのリンクだけで充分であり、他に漏洩しない別のデーターベースが必要とされる。

【医療等IDの必要性と要件について】
病診連携や診診連携等の医療連携、医薬分業、医療と介護の連携が進んでいる現代においては、病歴や薬歴・検査結果の共用により、不要な検査を行う事が無くなる。さらには、疫学的なデーターを収集して公衆衛生に反映させることも欠くことができない。

利点
1)情報の共有化により「かかりつけ歯科医(かかりつけ医)」機能の推進が図れる。
2)さらなる医療連携の機能促進が図れる。
3)何回も同じ検査を行わずに済むため患者の負担軽減とムダな医療費の削減が図ら  れる。
4)感染症等の現在の状況を隠しての受診が無くなるため、医療事故・医療過誤を防  ぐことができる。
5)投薬状況を確認できるため、誤投薬を防ぐことができる。
6)地域特性のデーター収集が早く行われるため、感染予防対策により早く対応でき  る。

しかしながら、問題点もある。
1)ICT関係事業者の情報漏洩に対する罰則規定が法制化されていない。
2)ICT関係事業者(ベンダー)間の言語が異なるため、データーの互換性が少ない。(共  通化できるシステムの構築が必要)
3) データーを共用化する管理者が決まっていない。法制化されていない。
4)医院等でデーターを見たり、書き込むための機器が必要となるが、その為の経費  ならびに費用対効果をどうみるか。
5)本人に承諾を得なくてはならない部分と医療上承諾無しで開示できる部分が明確  化されていない。
6)病歴の保存期間 一過性か終身制かにもよるが、明確になっていない。
7)遺伝的疾患や家族歴などは、どうするのか。
8)死亡後のデーターは、どうするのか。
9)災害時にデーターを活用すると言われているが、誰がどの様な目的で利用するの  かが明確になっていない。
10)疫学的なデーター等の使用に当たっての目的の明確化とその許可を与える部署   の明確化。
11)目的外使用の範囲ならびに許認可権の設定、及び罰則規定の明確化。

第三者機関を設けてこのような要件を早急に明確にしないと、活用できる医療等IDは絵に描いた餅となってしまう。

【まとめ】
マイナンバー制度は、平成27年10月に各個人に12桁の番号が通知カードとして提供され、平成28年1月から地方公共団体(市区町村)申請することで、個人番号カードが発行される。最初に利用できるのは、社会保障・税・災害対策のみに限定され、使えるのは国と地方公共団体に限定されている。社会保障に関しては、様々な申請にしか利用できないとされているが、民間事業者も、職員の健康保険や厚生年金に加入時、源泉徴収票発行時に必要とされる(ここにも個人情報保護法が関与してくる)。現在、個人番号カードのICチップには、病歴等は書き込まれないとされている。しかし、マイナンバー制度は3年に1回の見直しが行われることが決まっているので、これから先、医療情報が入れられることもやぶさかでは無い。
医療に係わる事項については、個人番号カードに入れるのでは無く、保険証「医療等IDカード」として別にして管理をすべきである。