在宅医療と医療連携

平成27年5月18日
矢部 浩美

【はじめに】
2025年、わが国は団塊世代の全てが後期高齢期に入りさらに高齢化が進む。人口の1/4が75歳以上、人口の1/3が高齢者となる超高齢社会に突入し、医療・介護財政問題が深刻化する2025年問題(図1)が予想される。高齢者独居世帯や高齢者のみの世帯が増加し、老老介護、介護難民、孤独死の問題が懸念され、現在約8割以上の人が病院等の医療機関で死を迎えている看取りの問題が身近になると思われる。住み慣れた自宅で家族と共に過ごしその環境下で療養が行われ、できる限り住み慣れた地域で安心して自分らしい生活を実現できる社会を目指さなければならない。介護・医療・住まい・生活支援・予防が一体的に提供され、在宅医療が中核をなす地域包括ケアシステムを構築することが重要となる。

2012年 2025年
65歳以上の高齢者 3058万人 3657万人
75歳以上の高齢者 1511万人 2179万人
2010年 2025年
認知高齢者 280万人 470万人
生産年齢(15歳~64歳)人口 8174万人 7085万人
医療給付金 37兆円 54兆円
介護給付費 10兆円 21兆円

図1 2025年の超高齢化社会における問題点

【「2025年問題」を社会保障の観点から考える】
団塊世代が75歳を超えることにより生じる問題は、超高齢社会に不可欠な医療・介護・保険・予防措置の一体化の構築であり、財源確保である。2014年度診療報酬改定は2012年度改定に続き、消費税率の引き上げ分は全額社会保障の充実と安定化に使うという「社会保障・税一体改革」を進め「2025年問題」に対応する医療体制作りへの着手を示したものといわれる。診療報酬改定率は実質マイナス1.26%となり医療費削減策となった。
「社会保障制度改革国民会議報告書」で、医療・介護の在り方は地域ごとに考える「ご当地医療」の必要性が確認された。「公助」は「自助」「共助」を補完し、社会保障は地方公共団体の役割と財源強化という形で地方自治体に委ねられた。2014年公布、施行の「医療・介護総合確保法」は「効率的かつ質の高い医療供給体制の確立」と「地域包括ケアシステムの構築」の同時一体的進行を確立し、社会保障の財政的安定化を図るのである。

【地域包括ケアシステムとは】
2013年8月6日、医療と介護のあるべき姿を目指した「社会保障制度改革国民会議報告書」のなかで地域包括ケアシステム(図2)は、「地域ごとの医療・介護・予防・生活支援・住まいの継続的で包括的なネットワーク」だとしており、介護保険だけでなく「訪問診療・訪問口腔ケア・訪問リハビリテーション・訪問薬剤指導などの在宅医療」が不可欠だとしている。つまり、高齢者の尊厳ある生活を地域社会の中で送ることができ自分らしく終末を迎えることができるように、医療、保健、介護、社会福祉が連携し患者と家族をケアで包み込むシステムが地域包括ケアシステムである。
2025年以降は、国民の医療や介護の需要がさらに増加することが見込まれる。「医療から介護へ」「病院・施設から地域・在宅へ」という医療費の削減をすすめる包括的なネットワークは、保険者である市町村や都道府県が市民、患者・家族の立場に立って作り上げていく地域包括ケアとなる。地域包括ケアの実現のためには、地域包括支援センターの役割が大きくかかりつけ医機能を担う地域医師会の協力を得、在宅医療と介護の連携を推進することが重要となる。

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図2 地域包括ケアシステム(厚生労働省から)

【地域包括ケアシステムの中核をなす在宅医療】
医療から介護、入院から在宅へという流れのもと推進される医療費削減に繋がる在宅医療は、地域の個々の医療機関に役割分担(図3)され、通院困難で病状が安定していて入院の必要のない患者、継続医療を受けたいと思う患者、治癒が不可能な患者の自宅や施設という病室で提供されるものである。在宅医療連携は地域包括支援センターや委託を受けた地域医師会が拠点となり実施するのだが、在宅医療連携体制の整備は進んでいない。診療報酬、介護報酬も然りである。特に医療と介護の連携を担当するケアマネージャー等と連携する在宅療養支援診療所は24時間365日体制の難しさから伸び悩み、連携体系の構築が課題となっている。

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図3 在宅医療の役割分担(ウイキぺディアから)

【在宅歯科医療の重要性】
安心・安全な在宅療養を送るためには、栄養管理や摂食・嚥下リハビリテーションが重要だといわれている。誤嚥性肺炎は口腔ケアや口腔リハビリの不備により発症し、咀嚼障害を伴う要介護高齢者には歯科医師の関与が不可欠である。在宅で療養している要介護高齢者は介護保険のケアプランで介護サービスを受けているため、ケアプランにかかわる家族・主治医・ケアマネージャー・訪看ステーション・訪問リハビリ・訪問ヘルパー等との連携が重要である。歯科医療は高齢者の「食」を支え健康寿命を延ばし、豊かなコミュニケーションの醸成という重要な役割を担っている。

【医療連携】
一人で多くの疾患に罹患している高齢者のQOL(生命、生活、人生の質)を支えるために、退院後の継続療養のために中核病院、開業医による専門診療科医院、診療所、介護療養施設、訪問福祉型民間業者等がばらばらに医療を提供するのではなく、チームを組んでより効率よく効果的に連続した医療を提供できるように、地域内で医療ネットワークを行うことが医療連携である。現在、厚生労働省の指導により医療機関の機能分担が進められている。医師、歯科医師、薬剤師等がそれぞれの法律が認める診療範囲内でお互いの役割を補っていくには、情報の共有が大切である。地域医療連携ネットワーク(図4)により地域内の病院、診療所、調剤薬局や介護施設等の情報を集約し、共有することで地域が一体となって患者の医療・介護を進めることができるのである。

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図4 医療ネットワーク(日本ユニシスから)

【まとめ】
団塊世代の全てが75歳を超える2025年を目標に「病院完結型から地域完結型へ」「入院医療から在宅医療へ」「医療から介護へ」「地域包括ケア」等の医療・介護の供給体制が都道府県はじめ各自治体に委ねられてきている。4人に一人が75歳以上になる超高齢社会では、医療・介護が一層危機にさらされてくる。高齢社会のもとで医療難民、介護難民を生み出さない「健康なまちづくり」のために、医療機関は経営の安定だけでなく医療の役割を考えなければならない。急性期病棟の削減など医療供給制限の受け皿でなく、患者・家族本位の医療保障、生活援助としての地域包括ケアでなければならないと考える。