5.特定健診・特定保健指導

特定健診 特定保健指導

平成29年11月2日 宮川慎二郎

【はじめに】
特定健診は、生活習慣病予防のために2008年度から市町村の国民健康保険や健保組合などが実施している。心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが高まるメタボリックシンドロームに着目しているため「メタボ健診」とも呼ばれる。腹囲、血糖、脂質、血圧の健診結果をもとに、高リスクの人は食事や運動などの特定保健指導を受ける。
昭和53年からの「第一次国民健康づくり対策」及び昭和63年からの「第二次国民健康づくり対策」を経て、平成12年からは「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本 21)を策定し、生活習慣病に関する一次予防・二次予防に重点を置いて数値目標を設けた健康づくり施策を推進してきたが、健康日本21中間報告書(平成19年4月)において、改善が認められない、もしくは悪化しているといった実態が明らかとなった。
厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会の「今後の生活習慣病対策の推進について(中間とりまとめ)」(平成17年9月15日)において、解決するためには新たな視点で生活習慣病対策を充実・強化することが必要であるとの考え方が共有され、平成20年4月より特定健診・特定保健指導が導入されることとなった。

【特定健康診査】
健康保険法の改正によって、2008年4月より40~74歳の保険加入者を対象として、全国の市町村で導入された新しい健康診断のことである。
この特定健康診査は、糖尿病や高脂血症、高尿酸血症などの生活習慣病の発症や重症化を予防することを目的として、メタボリックシンドロームに着目し、この該当者及び予備群を減少させるための特定保健指導を必要とする者を、的確に抽出するために行うものである。
従来の健診との比較では、腹囲が追加されており、男性が85cm以上、女性が90cm以上の場合、メタボリックシンドロームの基本要件を充たすこととなる。血液検査ではLDLコレステロール、HbA1c(グリコヘモグロビン)が必須項目として新たに追加され、総コレステロールが削除されている。胸部X線や喀痰検査が削除され、メタボに特化している点が注目である。
従来の健診では、医療機関ごとに検査法、検査機器、試薬などの違いにより基準値や健診判定値の違いがあり、異なる健診機関のデータを比較することが出来なかったが、この特定健康診査では実施した健診機関を問わず保険者はデータを一元管理し、リスクの高いものから優先的に保健指導を行うことが求められており、検査測定値の標準化を行うことが出来るようになっている。

【特定保健指導】
特定健診によって生活習慣病発症のリスクが発見された場合は、保健指導が行われる。これは従来のような、「病気にならないための理想的な生活習慣を一方的に述べる」というものではなく、健診の機会をとらえて自らの健康状態を把握してもらい、生活習慣を振り返りながら、何かできることはないかを医師や保健師、管理栄養士といっしょに考え、実現可能で効果が期待できる具体的な方法を見つけ出すというものである。
何の自覚症状もない人が健診の結果を見て、それまで長年続けてきた生活習慣を一変させることは大変であり、対象者本人が自身の健康状態について「このままではまずい」と生活習慣の改善を強く認識できること、体重増加と検査データの悪化などの関連から生活習慣が健康状態へ及ぼす影響が理解できること、日常生活で実施・継続可能な効果的な改善の方法を発見することが何より重要となる。
保健指導では、本人の考え方や行動変容への準備度を考慮しつつ、対象者自身が具体的な行動目標を立てられるよう、そしてその行動目標を実践できるように支援していく。そういう意味では「指導」というより「支援」といったほうがよいかもしれない。また、対象者ごとに効果的な保健指導プログラムは異なるという考えから、特定健診の結果で階層分けを行っている。具体的には、メタボ予備軍の患者には「動機づけ支援」を、そしてメタボ顕在化リスクの高い人には「積極的支援」を実施する。

【保健指導の実施者】
特定保健指導の統括者は、常勤の医師、保健師、管理栄養士でなければならないとされているが、先述の「動機づけ支援」「積極的支援」においては、それぞれ実施できるものが異なる。
例えば、初回面接、行動目標・計画作成の支援、評価(6ヶ月)などは、医師、保健師、管理栄養士に加え、2012年度末までは一定の保健指導の実務経験がある看護師も可能である。また、「積極的支援」における3ヶ月以上の継続支援においては、これらの専門職のほかに食生活改善の指導者、運動指導者などの専門的知識及び技術を有する者も認められている。
メタボリックシンドロームの診断基準に沿って複数のリスクを持つ受診者に対しては、医師、保健師、管理栄養士などによる特定保健指導が行う。病気の患者を拾い上げるのではなく、これから病気になりそうな人を抽出して医療関係者が早期に介入することが主眼となっている。

【まとめ】
特定健診は生命に関わる疾患に直結するが、本人の生活習慣を改善することで比較的容易に予防・改善できるメタボリックシンドロームに特化した健診事業である。また、実施した健診機関を問わず保険者はデータを一元管理でき、検査測定値の標準化を行うことが出来ることが従来の健診とは違うのが特徴である。腹囲が85cmを超えた瞬間に、健康体が一転して病気を発症することはないが、太り始めたそのときからメタボの歯車は着実に回り始めている。
メタボリックシンドロームは互いに関連しており、どんな順番で発生するかも解明されている。これを捉えたのが「メタボリックドミノ」という考え方である。肥満から高血圧、脂質代謝異常、糖尿病、動脈硬化が連鎖的に起こり、最終的には心筋梗塞や脳梗塞のような脳・心血管系の病気で倒れるまでの流れが、ドミノ倒しに似ていることからこのように命名された。そのまま放置してドミノ倒しが進んでしまうと、コマが1つ倒れるたびにいろんなコマが同時に倒れて手が打ちにくくなる。診断基準以下だからと安心しないで、普段から肥満に気をつけるなど、自分の立ち位置を常に意識が必要である。
特定健診事業には上がらないが国民の80%が持っている生活習慣病がある。よくご存知の歯周病である。歯肉の炎症が全身に多くの影響を与えることは昨今の研究で明らかになってきている。歯周病も糖尿病も生活習慣病であるから互いに深い関係があって不思議ではない。毎日の食生活を含めた生活習慣を見直し、歯周病を予防する事が全身の生活習慣病を予防することにつながる。全身の健康に歯科が関係することは沢山あると考えられる。健康日本21(平成12年)時には、歯科医、歯周病の項目が明記されていた。18年問題が影響しているのか不明ではあるが、国民の健康を考え、医療費の削減の意味からも特定健診にも歯周病検診を導入するべきであると考える。
最後に我々歯科医は口腔内の変化をみる事のできるプロである。口腔ケアは自分一人できちんと行うのは難しいと言われており、生活習慣に口腔内のケアが重要であると訴えていくべきである。

【参考文献】
1特定健診・特定保健指導について 厚生労働省
2特定健診・特定保健指導とは クボタ健康組合
3検診・保健指導案内 全国健康保健協会
4特定健康検査ナビ
5健康日本21 厚生労働省
6特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準
7歯周病が全身に及ぼす影響 日本臨床歯周病学会