3.後発医薬品使用促進

「後発医薬品使用促進」について

平成29年9月28日 田中良彦

【はじめに】
平成29年5月17日に厚生労働省 保険局で第105回社会保障審議会医療保険部会1)が開催され、「先発医薬品価格のうち後発医薬品に係る保険給付額を超える部分の負担の在り方について」が論議された。少子高齢化が進む日本では、年金や医療・介護などに使われた27年度の社会保障給付費は過去最高を更新し、特に医療費の伸びが目立ち、前年度より2兆6924億円(2.4%)も増えた。この増加には高額薬の登場が背景にあるとみられるが、8月の内閣改造では社会保障費の抑制が緊急の課題とされ、財務省では報酬の引き下げをも考えていると言われている。後発(ジェネリック)医薬品の使用率が足踏み状態の今、使用促進を進めたい政府とそれに反発する製薬会社、そして医師会と医師等の思惑について考察したい。

【後発医薬品とは】
後発医薬品2)(以下、後発品)とは先発医薬品(先発品)の独占的販売期間(日本では一般的に20年間の特許期間)が終了してから発売される。先発品と同じ有効成分で効能・効果、用法・用量が同一である。品質情報3)は厚生労働省より発信され、その有効性と安全性が検討、承認されている。価格は研究開発費が少なくてすむため、低価格での提供が可能で、その薬価は原則として先発品の6割にあたる。そして昭和32年の保険薬剤師療養担当規則に後発品の調剤に関する記載があり、約60年の歴史があることが分かる。

【後発品シュアについて】
日本市場における後発品シェア4)(数量比)はアメリカ合衆国・イギリス・ドイツ等で8割近くを占めるのに対し、平成23年で22.8%であり、「後発医薬品の使用状況調査5)」によると患者は医師の薦めがないと後発品を選択しない状況であった。海外では特許期間が日本より短いために後発品の普及が昔から進んでいる。

 【後発品使用促進】
平成21年のOECD対日審査においての医療制度改革で、後発品の推進に言及されており、22年までにシェアを最低でも30%とするよう勧告された。平成27年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針20156)」では、後発品シェアの目標値は29年央に70%以上、30年度から32年度末までに80%以上にすると決められた。この間の主な促進具体策は次のとおりである。

1.医療保険制度上の事項
後発品使用促進のために、まず処方箋の記載事項に後発品への変更不可チェックを書き加え、薬局での後発品への変更をしやすくした。診療報酬改定では24年度から「一般名処方加算」を導入し、一般名で処方すると2点加算となった。さらに28年度からは全ての医薬品が一般名処方だと3点加算、一部だと2点加算に改定された。薬局には「後発医薬品調剤体制加算」の要件を28年度より厳格化し、後発品シュアの施設基準を65%以上と75%以上に引き上げた。入院患者に対しては「後発医薬品使用体制加算」が後発品シェアの割合により28年度より3段階に分類された。院内処方を行っている診療所には26年度より「外来後発医薬品使用体制加算」が新たに設けられた。このように加算の点数を付けることにより後発品シェアは増加した。そして新規収載される後発品の薬価については、原則として先発品の6割としていたものを5割に引き下げ、先発品との価格差を図った。
2.医療関係者への情報提供
「後発医薬品品質情報」を厚生労働省で年2回発行し、後発品が先発品と変わらない効力があることを周知し、地方自治体から医療機関へ使用促進の協力依頼を行った。各都道府県において医療関係者等をメンバーとする協議会を開催して情報提供・共有を推進している。
3.患者への普及啓発
政府広報の活用やポスター・リーフレット等による普及啓発の推進を行い、保険組合から後発品を利用した場合の負担額の違いについて通知している。
4.生活保護受給者への対応
26年より施行された生活保護法改正案7)により、「可能な限り後発品の使用を促すことにより医療の給付を行うよう努めるものとする」となり、薬局で患者が先発品を希望した場合は後発品の使用について説明することになった。

【今後の扱い】
以上の対応により28年9月時点での後発品シェアは66.5%に達したが、目標の29年で70%以上にするにはさらなる努力が必要である。医療機関において、先発品の銘柄を指定して変更不可にする理由としては、「患者からの希望があるから」が最も多くなっている。また、患者においては「ジェネリック医薬品の効き目や副作用に不安があるから」が最も多く、次いで「使い慣れたものがいいから」となっている。
29年5月に厚労省で開催された第105回社会保障審議会医療保険部会では、さらなる医療費適正化や後発品の使用促進を図る観点から、先発品価格のうち後発品に係る保険給付額を超える部分の負担の在り方について、次の2案を提示した。

①先発品と後発品の差額を患者負担とする
先発品が100点、後発品が50点で1割負担の場合、患者の一部負担金はそれぞれ100円、50円となるが、価格の差額500円が患者負担となるため、先発品は600円となる。これは先発品の使用を選定療養と位置付け、後発品の薬価までを保険外併用療養費として給付し、後発品の薬価を超える部分は医療機関等が患者から徴収する考えであり、患者負担が増大する。
②先発品の薬価を後発品まで引き下げる
価格差がなくなるので、患者にとって後発薬を使用するインセンティブがなくなる。

以上のことから、部会の委員より「国民の理解が得られない」「医療メーカーの競争原理が働かなくなる」などの否定的な意見が相次いだ。

【まとめ】
後発品の問題は製薬会社、薬局、医療機関と政府が絡み、解決が困難になっている。まず私どもが最優先で考えるべきことは「世界に冠たる国民皆保険を維持し、これを次世代に引き渡すことを目指す」という目標を守ることである。そのためには制度の見直しと医療関係者の意識の改革が必要である。
現在、後発品シェアが伸び悩んでいる理由はいくつか考えられている。まず患者が後発品はコピー商品で薬効が劣り、副作用の発生率が高いと誤解していること。そのために一部負担金がないもしくは高齢者等の低額負担の患者が先発品にこだわっている。次にいまだに処方箋の後発品への変更不可のチェックをいれる処方医がいること。これは昔から医師等が製薬会社の営業担当者に便宜を図ってもらう関係が続いているため、それによる影響が考えられる。そして薬局では後発品がダンピング価格で購入できるために薬価差益が生じている問題があり、さらに在庫管理の問題もある。
今後の後発品の扱いは、「先発品は特許期間が過ぎたら後発品の価格と同じ(薬価を5割以下)にして、その後も充分な供給ができる限り、独占販売権を継続できることにする。そしてその権利を放棄した場合は他のいかなるメーカーでも後発品を製造することができる。」とすることを私は提案する。こうすれば、先発品と後発品が同時に存在することがなくなるので、問題は解決する。
同時に後発品使用促進のために作られたあらゆる加算の診療報酬は廃止する。薬価が低下しても加算を算定することにより医療費が増加しては本末転倒であり、加算の点数がないと後発品シェアが増加しないのは医療関係者としてあまりにも情けない。
薬関係の問題は他には高額薬・残薬などがあるが、かかりつけ薬剤師や電子お薬手帳の普及が解決に糸口になる。そして医薬分業が進んだが、患者の手間や経済的負担は増加している。地方の医療現場ではそのために院内処方を維持している病院が多くみられる。このような医療関係者の努力が、今後の国民皆保険の維持につながると思う。

【参考資料】
1.第105回社会保障審議会医療保険部会 資料 2017.5.17 厚生労働省
2.ジェネリック医薬品とは 日本ジェネリック製薬協会
3.後発医薬品品質情報 医薬・生活衛生局医薬品審査管理課 厚生労働省
4.後発医薬品の使用促進について 厚生労働省
5.平成22年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査 後発医薬品の使用状況調査 厚生労働省
6.経済財政運営と改革の基本方針2015 内閣府
7.改正生活保護法について 社会・援護局保護課 厚生労働省