2.セルフメディケーション税制について

平成29年9月21日 薄葉博史

【はじめに】
セルフメディケーションとは、WHOにおいて「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分自身で手当てすること」と定義されている。
セルフメディケーションを推進してゆくことは、国民の自発的な健康管理や疾病予防を促進することはもちろんのこと、医療費の適正化にも繋がる。
国民皆保険制度の我が国においては、セルフメディケーションを推進する観点から、特定健診等の健康管理や疾病予防のための施策を設けてきたが、医療費の削減には結びつかず、受診率も上がらないのが現状である。
そこで、国は新たな施策として、適切な健康管理下で医療用医薬品からの代替えを進め、健康の維持増進、疾病予防への取り組みを行う個人に対し、平成29年1月1日から平成33年12月31日までの5年間に限り、自己と生計を共にする配偶者や家族がスイッチOTC医薬品を購入し対価を支払った場合に、その年度中に支払った対価額の合計金額が1万2千円を超えるときは、そのこえた部分の金額(上限8万8千円)について、その年分の総所得金額等から控除する事とした。これがセルフメディケーション税制である。

  • OTC医薬品とは:2007年までは、一般薬あるいは市販薬と呼ばれていた。薬局・薬屋・ドラッグストアで購入できる医薬品 (Over The Counterの略)。スイッチOTC医薬品は、医療用医薬品を市販薬として転用したものの通称。

【この制度を利用するためには】
1. 対象となる医薬品を購入すること
スイッチOTC医薬品でも、対象となる医薬品にはパッケージにこの税制の対象である旨の識別マークが掲載されている。対象成分の入っているものでも対象外の製品もある。
現在、厚生労働省が認めているものは、83成分 1500品目が掲載されており、2ヶ月に1回更新されている。歯科に使用が限定されている成分では、イソチペンジル(歯痛・歯周病に限る)フッ化ナトリウム(洗口液に限る)が上げられている。
対象となる医薬品であることが証明できるレシートまたは、領収書が必ず必要となり、コピー等は不可となっている。合計金額が1万2千円以上となること。

2. 健康の保持増進及び疾病への予防への取り組みが為されていること
厚生労働大臣が定める、医療保険法等の規定に基づき健康の保持増進のために必要な事業として行われる健康診査または健康増進法第19条の2に基づき健康増進事業として行われる健康診査、または予防接種(平成28年厚生労働省告示第181号)を同一年に受けていることが必要となる。
具体的には、以下のものが該当する。
・保険者が実施する健康診査(人間ドック・各種健診(検診)等)
・市町村が健康増進事業として行う健康診査
・予防接種(定期接種・インフルエンザワクチンの予防接種)
・勤務先で実施する定期健康診断(事業主検診)
・特定健康診査または特定保健指導
・市町村が実施するがん検診
いずれか一つ以上を受け、証明書の添付が必要となる。
(歯科健診は今のところ含まれていない)

3. 従来の医療費控除との併用は出来ない
確定申告を行うにあたり、従来の医療費控除を行うのか、セルフメディケーション税制にて控除を受けるのか選択して申告しなくてはならない。申告後に切り替えることは不可となっている。

4. 所得税・都市住民税の課税世帯であること
確定申告により減税されることから、課税世帯のみの対象となる。

【まとめ】
セルフメディケーション税制を使うためには、決められた健診等の受診が義務づけられている。このための健診等の受診率は上がると思われるが、スイッチOTC医薬品の購入に移行するか甚だ疑問に思われる。何らかの異常を医師に訴えれば、医療用医薬品の処方を受けることが出来る。その方が個人負担額は少なくてすむ。そうすると医療費はさらに増加するのではないだろうか。国が5年間に限った施策としたのは、この成り行きを見るためと思われる。
セルフメディケーションを定着させるためには、皆保険制度の我が国においては、健康保険法を改正して疾病になってからだけでなく、予防や指導を加えることにより、長期的にみれば医療費の抑制に繋がるのではないだろうか。

参考資料
1.厚生労働省ホームページ「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について」
2.国税庁ホームページ「セルフメディケーション税制と従来の医療費控除との選択」
3.日本薬剤師会ホームページ
4.日本OCT医薬品協会(JSMI)ホームページ
5.第一三共 ヘルスケア 「くすりと健康の情報局」
6.Today’s Trend Newsホームページ
7.その他 製薬会社ホームページ