1.広告規制緩和

広告規制緩和

平成29年7月13日 佐藤全孝

【はじめに】
「広告」とは、認知性、誘因性、特定性を持つことが定義され、人々に関心を持たせ購入するために、有料の媒体を用いて商品の宣伝をすること。またそのための文章類や記事。広く世の中に知らせること。とある。また通常、広告主(アドバタイザー、クライアント)と媒体(メディア)の間に媒体から権限を委ねられた広告代理業が介在し、広告主は広告代理業に対して料金などの交渉を行うことになる。広告媒体にはマスコミ四媒体(新聞広告・雑誌広告・ラジオ・テレビ)と他の媒体として屋外広告(大型映像ボード・電柱広告・消火栓広告・ポスターボードなど)、交通広告(駅、空港などの交通施設敷地での掲示、車両内吊り広告、トラック広告など)、動く媒体(チンドン屋、サンドウィッチマン、ヘリ・飛行船広告)、ダイレクトメール、新聞折込広告、フリーペーパー、ニューメディア(CSデジタル放送、BSデジタル放送、ケーブルテレビ)、インターネット広告(ウェブサイトバナー広告、検索エンジンによる検索連動型広告、メール広告、メーリングリスト広告、ブログパーツによる広告)などがある。
※医療機関でよく見かける広告媒体:医院の看板、野立て広告、電柱広告、バス・電車の広告、雑誌広告、電話帳、新聞折込チラシ、ホームページ(基本的には広告でないとされているが、場合によっては規制対象)、インターネット上のバナー広告、内覧会
※インターネット広告:インターネットのウェブサイト(Google、Yahoo!JAPANなど)やメールを使用し企業が製品やサービスのマーケティングのために行う宣伝活動のこと。携帯電話などのモバイル端末に表示される広告も含まれる。「ネット広告」と略されたり「オンライン広告」、「ウェブ広告」とも呼ばれる。

【広告の規制】
広告の内容については、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)や医薬品医療機器等法などの法令、業界の公正競争規約などで規制されるほか、各メディアで独自の広告掲載基準を持っており、表現が基準に合わない場合には修正を要請されたり、場合によっては掲載を拒否されることもある。しかし掲載基準の運用は全体的に甘いため、誇大表現の広告が後を絶たない。

【広告の規制緩和】
我が国では、法令や自主基準などによる特定の業種に対する広告の規制もある。医療機関、医業(病院・診療所など)の広告は医療法第69条で規制されてきたが(診療科目や診療時間・休診日、住所、電話番号、地図程度しか出せなかった)、2001年に規制が一部緩和された(医師名、所属学会、ホームページURLなど)更に近年、規制が緩和される広告が増えている。その代表的なものに医療広告や弁護士広告がある。医師・歯科医師や弁護士は、共に高度な知識と技能を必要とする専門的職業であり、公共的性格の強いサービスと言えるが、弁護士などの広告が原則自由なのに対して医療広告は医療法に定められた項目以外は表示できない。過剰な広告を認めれば、生命や身体に影響を及ぶ恐れがあり医療は専門性の高く素人は広告だけでサービスの質を判断できない。また、クーポン広告は一般の広告と同じく独禁法と景表法のルールで行われるようになり、求人広告は雇用対策法の改正で募集採用時の年齢制限が原則禁止され、求人側にとっては規制強化であるが、求職側にとっては規制が緩和された。こうした規制の緩和は、新聞広告掲載基準にも反映される。

【医療広告規制の趣旨と見直しの概要】
医療広告規制とは、医療法第6条の5で定められた広告規制のことをいう。医療広告ガイドラインによると医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告については、患者さん等の利用者保護の観点から医療法その他の規定により制限されてきたが、社会保障審議会医療部会における意見等を踏まえ患者さん等が自分の病状等に合った適切な医療機関を選択することが可能となるようにまた、患者さん等に対して必要な情報が正確に提供され、その選択を支援する観点から、広告可能事項の規定の仕方が従来の医療法や告示のように1つ1つの事項を個別に列記する「ポジティブリスト方式」では患者さんが医療機関を選択するには情報量が少なく患者さんのニーズに充分応えることができないので、一定の性質を持った項目群ごとにまとめて「○○に関する事項」のように広告でき情報範囲を拡大できる「包括規定方式」を導入した。(H19.4.1より施行)また罰則規定が直接罰方式から間接罰方式に変更した。

【医療広告ガイドラインで示される広告可能範囲】
医療情報の提供のあり方等については過去に何度も見直しが検討され、平成20年度から「広告可能な事項の拡大」いわば規制緩和が実施された。緩和と言っても基本概念は変わらない。そして包括規定方式で情報範囲は拡大されたが、情報の質を確保するため、医療機関側の主観的判断や評価を排除しているが、公表されたガイドラインは今後表示内容が変更する可能性もあり、行政の動向に注意が必要である。

広告できない事項
1)医療法による禁止:医療法及び厚生労働省告示で広告が可能な事項とされていない事項、虚偽広告
2)医療法施行規則による禁止:比較広告、誇大広告、公序良俗(公の秩序又は善良の風俗)に反する内容の広告、広告をする者が客観的な事実と証明できない内容の広告
3)ガイドラインによる禁止:品位を損ねる内容の広告
※ホワイトニング等の審美治療という表現で行われる医療行為については、意見があり広く定着していると認められていないため広告できません。但し個々の治療の方法については、広告告示第2条第1号から5号に規定する広告可能な治療方法であればその治療方法について広告することは可能です。
※具体例:客観的事実を証明できないため禁止される表現として、日本一、№1、最高、無痛、痛みの少ない、絶対安全(安心)な手術、比較的安全(安心)な手術、高度の技術、若返り、万全の・・、患者さんの体験談紹介、著名人の診療(誤解を与える可能性があるため広告不可)、○○が無料、割引キャンペーン中がある。また自費診療の広告もできるようになったが、薬事法の承認を受けていない機器や材料を使用したり、薬事法の対象外となる使用法を取る治療法は広告できない。特に3Mix法は三剤の混合や治療方法が薬事法の承認を得ていないので広告できない。インプラント、ホワイトニング、レーザー治療については使用する機器や材料が薬事法の承認を受けているか確認する必要がある。

【院内掲示】
医療機関は様々な法律により規制を受けているが、院内の掲示物についても医療法や療養担当規則などにより、貼るべきものが決められており来院した患者さんに対する情報提供のため様々な事項(治療費にかかるもの、診療の案内にかかるもの、院内での注意事項にかかるもの、医師会等からの講演会の案内など、役所等からの公的保険についての案内、院内の医療機器について説明するもの等)について病院又は診療所内の見やすいところに掲示することが義務付けられている。また2017年6月1日に厚生労働大臣の定める掲示事項が更新され2年に1回の診療報酬改定のほか、概ね5年に1回実施される医療法改定の際に掲示物の見直しをしなければならないため医療機関のフォロー体制の構築が重要である。院内掲示の情報は来院している患者さんに限定されているため、認知性がないため情報提供や広報とみなされ、広告とはされていない。(希望していない人にダイレクトメールとして送るパンフレットは広告とみなされる)
院内掲示が広告とされていなくても医療広告ガイドラインや医療機関ガイドラインに沿った内容の情報提供することが望ましい(虚偽や誇大広告は許されない)

【まとめ】
医療機関の広告規制の見直し等を盛り込んだ医療法改正案が2017年3月10日に閣議決定され5月26日全会一致で可決し公布は6月14日となった。また医療機関ウェブサイトでの虚偽・誇大な内容等の不適切な表示を取り締まるネットパトロールが2017年度中にスタートすることが決定し医療法改正案の閣議決定、ネットパトロール開始と医療機関ウェブサイトの表示規制について、いよいよ本格的に動き出した。違反した場合は「医療法第73条」と同様に「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科す」とされている。改正案が成立しても問題ないように日頃から客観性・正確性のある情報提供を心がけ、どのような広告の仕方が自院にとって有効なのか検討することが肝要である。

※改正医療法成立について、ウェブサイトも広告と同様に虚偽や誇大な表示を罰則付きで禁止する。他に高度な医療を提供する特定機能病院の安全管理体制の強化も盛り込まれた。ウェブサイトは利用者が自ら検索して閲覧するため、チラシや看板のような一般人の目に入る広告と区別され、規制の対象外だった。国民生活センターによると「ホームページ掲載の費用より実際の費用が高額になった」などの相談が年間1千件寄せられている。改正法では虚偽や誇大な表示を禁止し、違反した場合の罰則を設けた。一方、自由診療の広告はこれまで基本的に禁止されていたが、改正法ではウェブサイトの利用者が知りたい情報として治療内容などの表示を認める方針で今後具体的な基準を定める。群馬大学病院や東京女子医大病院で死亡事故が相次ぎ特定機能病院の承認が取り消されたことを受け、改正法で特定機能病院の安全管理体制の強化も盛り込まれた。大学の理事会などに医療安全の監視委員会の設置を義務づけ、病院長の選任は外部有識者を入れて審査することなどを定めた。広告規制について、「過度な規制とならないよう留意すること」「美容医療における死亡事例を含む事故の把握を行うこと」など、特定機能病院の安全管理体制強化については「再承認にあたっては医療事故当事者に真摯に向き合う体制について十分に確認すること」などの付帯決議が衆参両院で可決された。

<参考資料>
厚生労働省HP「医療法における病院等の広告規制について」
インサイト 歯科開業トピックス
ビジネスとIT活用に役立つ情報「医療機関ウェブサイト広告規制」
eーらぽーる経営管理講座「実践的病院広報戦略」
読売ADリポートojo「規制が緩和された4つの広告」
歯科医院開業・医院経営支援サイト「広告規制緩和と歯科医院の広報戦略」
第193回国会 議案の一覧(衆議院)
厚生労働省HP「院内掲示」
ウェキペディア「広告」
大辞林 第三版「広告」
朝日新聞(6月7日記事)