9.中央社会保険医療協議会の役割 その1

中央社会保険医療協議会(中医協)の役割 その①

平成29年5月25日 小倉陽子

【はじめに】
医師、歯科医師等が保険医療機関において保険診療を行なった場合、その対価は「診療報酬点数表」に基づき算定される。年齢や加入している医療保険の違いにより患者の負担率は異なるが、被保険者は病院・診療所に支払われるべき診療報酬の一部を負担し、残りの金額は保険者と税金により賄われる。この仕組みの基礎となる診療報酬点数を決めるにあたり、中央社会保険医療協議会が果たす役割について、今回は概要と歴史を中心に解説する。

【中央社会保険医療協議会】
厚生労働省には、法律や政令の定めにより設置された17の審議会・協議会があり、そのうちの1つとして「中央社会保険医療協議会(以下、中医協と称す)」がある1)。中医協は、診療報酬や薬価など、公的医療保険から医療機関等に支払われる公定価格を決定する権限を有する厚生労働大臣の諮問機関である。協議会は①支払側委員(保険者、被保険者の代表)と②診療側委員(医師、歯科医師、薬剤師の代表)とが保険契約の両当事者として協議し、③公益委員(国会同意人事)がこの両者を調整するという「三者構成」になっている。また、専門事項を審議するために必要があると認められる場合には、10名以内の専門委員を置くことができる2)
支払側委員は全国健康保険協会理事や健康保険組合連合理事、日本労働組合総連合会総合政策局長などの7名、診療側委員は日本医師会から3名、日本歯科医師会、日本病院会、全日本病院協会、日本薬剤師会から各1名の計7名、公益委員は東京大学大学院や一橋大学大学院、慶應義塾大学などの教授・准教授ら6名の合計20名により構成されている。また、専門委員には歯科の代表として千葉大学大学院医学研究院(口腔外科分野)教授や、そのほか日本看護協会会長や日本臨床衛生検査技師会専務理事、大手製薬会社役員などが含まれる(平成29年3月1日現在)3)
なお、地方には「地方社会保険医療協議会(地方医療協)」が設置されており、病院・診療所や薬局が保険医療機関および保険薬局の指定申請を行う際や、医師・歯科医師、薬剤師が保険医、保険薬剤師登録の申請を行う際に、厚生労働大臣の諮問に対し審議、答申する役割などを担っている。
通例として診療報酬は2年に1回、介護報酬は3年に1回の改定で、両者の同時改定が6年に1回のペースで行われている4)
では、このような仕組みはいつ頃からできたのか。中医協に関連する歴史を遡る。

【歴 史】 *厚生労働省、厚生労働大臣等は当時の名称で記載
わが国の医療保険は、1922(大正11)年に制定され、1927(昭和2)年に全面施行された「健康保険法」から始まる5)。当時の診療報酬は、政管健保は人頭割請負方式、組合健保は組合と医師会との契約によって決められていた6,7)。しかし、被保険者の対象が工場や鉱山などの事業所で働く従業員本人のみであったため、当初は人口のわずか3.0%程度の適用に留まっていた。その後、1938(昭和13)年に厚生省が創設され、「国民健康保険法」が制定された。これを期に、社会状況の変化を背景に新たな保険法などが制定され、保険組合の形態の変化とともに被保険者の対象が拡大した。これにより、労働者のための社会保険から国民全体を対象とするものとなり、これが戦後の国民皆保険制度の基礎となったとされる5)
1943(昭和18)年の健康保険法改正により、診療報酬に点数単価方式が採用され、「診療報酬は、医師会や健保連、国保など関係者の意見を聞いて厚生大臣が定める」こととなった。
翌(昭和19)年、厚生大臣が診療報酬を定めるに当たって意見を聞くための組織として「社会保険診療報酬算定協議会」が設置され、関係者のほか学識経験者の意見も聞いて定められるよう改められた。
1947(昭和22)年、「社会保険診療報酬算定協議会」は「健康保険診療報酬算定協議会」と名称を改め、法制上の機関となり、診療報酬改定単価の決定に当たっては、算定委員会の意見を聞くことが条件となった。
1948(昭和23)年、健康保険法が改正され、協議会は再び「社会保険診療報酬算定協議会」と改称された。併せて、適正な保険診療の指導、監督を任務とした「社会保険診療協議会」も発足した。
1950(昭和25)年、「社会保険診療報酬算定協議会」と「社会保険診療協議会」が統合され「中央社会保険医療協議会」が発足した。当時は、保険者代表(6名)、被保険者・事業主代表(6名)、診療側代表(6名)と公益代表(6名)の四者構成であった。こうして発足した中医協は、診療報酬を始め医療給付の水準を定め、国民のニーズと医療技術の進歩に対応した効率的な医療保険の運営を図る役割を担うようになった。ところが昭和30年代前半になり、甲乙表告示や診療側委員の任命を巡り中医協が空転したことから、改組が望まれるようになった。

*医科点数表を技術料に重点を置いた「甲」表と、従来の点数表を踏襲した「乙」表の2本立てとし、各医療機関が自由に選択する仕組み5)

1961年(昭和36年)、「国民健康保険法(新国保法)」が施行され、国民皆保険体制(制度)が確立した。中医協では改組法が成立、施行され、現在の支払側の代表(8人)と診療側の代表(8人)、公益代表(4人)の三者構成となった(新中医協の発足)6-8)
以後、高度経済成長を背景に保険給付の充実が図られ、医師及び医療機関の主な収入が保険診療によるものとなる中で、中医協において診療報酬の決定を巡り支払側と診療側の対立や、強い発言権を持つ日本医師会が、日本病院協会や厚生省と対立するなどの混乱が生じた。しかし診療報酬を決める明確なルールがないことなどから、改定率をめぐる両者の合意が成立せず、2000年頃までは政府与党による政治決定が行われることもあった9)

そんな中、2002(平成14)年度の診療報酬改定における「かかりつけ歯科医初診料」の算定要件の緩和について、一部の診療側委員及びその推薦団体が、自己に有利なものとなるよう一部の支払側委員に対し金品の授与による不正な働きかけをしたとして、歯科医師会関係者5名が贈賄容疑で、当時の健康保険組合連合会副会長ら2名が収賄容疑で逮捕された10-11)。この事件を受け、厚生労働大臣の参集により「中医協のあり方に関する有識者会議」が設置され、2005(平成17)年の中医協改革により以下のように改められた。診療報酬改定においてその改定率を決めていた中医協は、これを機に権限や役割が大幅に縮小された。

○中医協の機能・役割

  • 診療報酬改定の改定率は予算編成に際し内閣が決定する
  • 診療報酬改定に係る「基本方針」は社会保障審議会の医療保険部会と医療部会で決定する
  • 中医協は定められた「基本方針」に沿って、具体的な診療報酬点数の設定に係る審議を行う
  • 診療報酬点数の改定案の諮問・即日答申の取り扱いを改める

○公益機能の強化・委員構成の見直し

  • 公益委員については診療報酬改定の結果を検証して国民に分かりやすく説明し、国民の評価に資する機能を担わせる
  • 公益機能を強化し、公益委員を4名から6名に増員し、それに対応して支払側及び診療側の委員を8名から7名にする
  • 医師を代表する5名の委員のうち2名を病院の意見を反映できる医師とする

○その他

  • 診療報酬点数の改定案を答申するに至る過程において、広く国民の意見を募集する手続きをとる

厚生労働省会議資料「中央社会保険医療協議会の新たな出発のために」13)より抜粋

【まとめ】
国民皆保険体制のおかげで、日本国民の多くは必要な時に必要な医療を適切に受けることができる。この制度が施行されて以来70年近くが経とうとしているが、医療費の収支バランスが崩壊し続け、現在は大きな危機に直面している。歯科は保険医療機関での保険診療の割合が多いが、国民医療費のうち歯科診療が占める割合は全体の1割にも満たない14)。現在の限られた財源の中で、医療の質を保ちながら十分な診療報酬を得ることは非常に困難を要する。今後の診療報酬改定において中医協が果たす役割がいかに重要か推察される。
今回は中医協の役割について、概要と中医協改革までの歴史をもとに解説した。今後は診療報酬改定の仕組みや問題点等について順次解説を行う予定である。

【参 考】
1)http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/indexshingi.html
2)http://www.procomu.jp/janap2010/shuuda.pdf
3)http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000154499.html
4)https://cocomedica.jp/170/
5)http://tanemura.la.coocan.jp/re3_index/2K/ke_health_insurance.html
6)http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/02/dl/s0222-14b2.pdf
7)https://www.spmed.jp/14_kankei/qa_pdf/16_qa/qa_H1606.pdf
8)http://lohasmedical.jp/archives/pdf/46_2toku.pdf
9)https://kotobank.jp/word/診療報酬
10)http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/02/dl/s0222-14g.pdf
11)http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/02/dl/s0222-14g.pdf
12)http://www.kantei.go.jp/jp/singi/syakaihosyou/dai6/6siryou1.pdf
13)https://www.med.or.jp/nichikara/yushiki1707/b_new.pdf
14)http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/14/dl/sankou.pdf