3.「突合点検」・「縦覧点検」について

平成29年1月26日
宮川慎二郎

【はじめに】
ICTの普及に伴い医療分野でも現在では診療報酬請求書において、電子媒体を使用しての請求が原則義務付けられています。これにより従来では非常に煩雑であった統計調査が極めて簡単に行えるようになりました。
突合点検1)とは同一保険医療機関・同一患者に係る同一診療(調剤)月において歯科レセプトと調剤レセプトを電子的に照合して、院内で処方しているレセプトと同じ観点により点検を行うことをいい、縦覧点検2)とは同一保険医療機関・同一患者に係る当月請求分と過去複数月のレセプト及び入院と入院外レセプトをそれぞれ電子的に照合して、当月請求分レセプトの点検を行うことをいいます。
今回、平成24年3月審査分から始まった新しい審査法の仕組みや問題点について書きます。

【突合点検】
 社会保険診療報酬連合会では、電子レセプトで請求された同一患者に係る同一診療(調剤)月において、歯科レセプトと調剤レセプトの組合せを対象とし、歯科レセプトに記載された傷病名と調剤レセプトに記載された医薬品の適応、投与量及び投与日数の点検を行い審査委員会で審査決定します。国民健康保険団体連合会では突合点検については一次審査では行われず,再審査において行われています。
保険者等への請求額は突合点検により、医薬品が査定となった場合は、査定後の決定点数により算出した額により請求します。保険医療機関及び保険薬局への支払は突合点検による査定による減額分は、当月請求分に係る支払額から調整を行わずに、診療報酬及び調剤報酬を支払います。
突合点検の査定に係る支払額については、突合点検の査定結果を保険医療機関に連絡し、保険医療機関から、処方箋の内容と不一致である場合、その申し出を受けて保険薬局から処方箋の写しを取り寄せます。保険医療機関の処方箋の内容が不適切であったことによるものか、又は、処方箋の内容と異なる調剤を保険薬局が行ったことによるものかを確認(責別確認)した上で、原則、請求翌々月に支払額を保険医療機関又は保険薬局から調整します。

【縦覧点検】
同一保険医療機関に係る同一患者において、当月分の歯科レセプトと直近6か月分の複数月のレセプトの組合せを対象とし、診療行為(複数月に1回を限度として算定できる検査、患者1人につき1回と定められている診療行為など)の回数などの点検を行い、審査委員会で審査決定します。また、同一診療年月、同一保険医療機関及び同一患者の医科及び歯科の入院レセプトと入院外レセプトの組合せを対象とする横覧点検も行っています。
国民健康保険団体連合会では、縦覧点検は現時点では始まっていませんが、各審査委員が使用しているコンピューターでは確認する事は可能で、審査に利用する事があります。また、診療行為を算定した日が分かるシステム(算定日情報)も入っており一枚のレセプト内の算定日も閲覧出来るシステムになっています。

【突合再審査】
保険者が歯科レセプトと調剤レセプトを突合点検した結果、「保険医療機関が発行した処方箋の内容」又は「保険薬局の調剤」が不適切と考えられる場合の再審査請求を「調剤審査」と言っていましたが、突合点検の実施に伴い平成24年3月審査分から「突合再審査」としています。また、保険医療機関からの突合点検による審査結果に対する再審査請求も「突合再審査」としています。保険者又は保険医療機関から突合再審査の申し出があり、審査の結果、査定に伴う責別確認を、原審査段階で行う突合点検と同様の処理方法で実施します。

【まとめ】
医療機関等から請求されるレセプトは膨大な数にのぼります。病院は全国で約9000施設、診療所は約10万施設、薬局は約5万4000施設もあり、毎月末締めで作成されるレセプトは1億2000万件にも達します。これらのレセプトは、保険種別に応じて国民健康保険団体連合会、もしくは社会保険診療報酬支払基金の事務所に提出されます。
政府は日本再興戦略3.4)のなかで最先端の医療立国にするという目標を掲げ、医療保険制度についても世界へ発信できる制度にしたいとしています。この一環で厚労省はレセプトの請求方法を電子レセプトでの請求を義務化する旨の省令改正を行いました。医療機関の種別に応じて段階的にオンライン化を進め、原則完全オンライン化の方向が打ち出されました。従来のレセプト請求は紙ベースで行われていましたが、保険医療機関・保険薬局、審査支払機関、保険者の医療保険関係者すべての事務の効率化の観点から、レセプト電算処理システムが構築され、現在ではほとんどが電子レセプトによる請求となっています。レセプトのオンライン化によって、

①レセプト処理の効率化、迅速化、自動化、ペーパレス化、人為的ミスの排除などが期待できます。
②電子的に蓄積されるレセプトデータを疫学調査に活用し、その結果を疾病の予防や保健指導などに役立てることができます。
③またマイナンバー制度導入とともにデーターを記憶させることで、何時いかなる場所でも過去の診療行為や各種データーを引き出すことができ活用できます。
④結果として中長期的な医療費抑制効果も期待されています。

レセプト審査に関しては、従来の紙ペースのレセプトでは毎月1億件以上にも及ぶレセプトに基づいて同一患者の医療機関と薬局のレセプトを照合すること、複数月にわたって経時的に照合することは不可能でした。しかし電子レセプトが普及したことで、コンピューターによってこれらのレセプトデータの蓄積や紐付けが容易になりました。突合点検、縦覧点検が容易に出来るようになりました。電子レセプトの実現により、医療機関、薬局は保険者に請求した診療報酬の支払いが早まるメリットがあります。
健康保険法では保険医療機関等は保険診療に要した費用を保険者に請求し、保険者はこの請求に対し審査の上、支払うと定めています。過剰請求や不適正な請求を排除し、適切な保険診療を確保するために行われるのがレセプト審査というわけです。審査は、診療行為が保険診療ルールに適合しているかどうかの観点から行われます。記載不備などといった単純なレベルから、高度な医学的・薬学的判断を必要とする事項まで含まれます。
一方、診療行為は元来個別的なもので、一律性、画一性を求める審査とは相容れない部分もあります。どこかで線引きをして、医学的必要性・妥当性を見極め、折り合いをつけざるを得ません。そのため審査委員にはより深い専門的知識と豊富な経験が求められます。
効率化と無駄の排除が大義名分となってコンピューター審査が導入されようとしていますが、医療費抑制を目的にしたものであることは明白です。縦覧・突合点検や更なる標準病名の強要、病名と医療行為の紐付け策等が導入されれば、 医師の裁量権はなくなり日常診療は大変窮屈な物になってしまいかねません。審査機関のコンピューター審査はあくまで審査業務の補助手段であり、最終判断は審査委員会が行うと言っていますが、コンピューターの判断が審査委員会を引っ張っていくことにならないか疑問です。大幅に逸脱した診療でなければ、コンピューター審査導入後も、医師の裁量権を尊重して運用をしてほしいと思います。 このことは何よりも患者を無視した合理性が優先されるシステムであり、我々医療機関はその患者と向き合いその声を代弁すべく注意深く見守って行く必要があります。コンピューター審査が審査委員会をリードする事がないよう、また患者に不利益にならないよう各審査委員へ注意喚起することが重要であると思われます。

参考文献
1)社会保険診療報酬支払基金ホームページ 診療報酬の審査 突合点検縦覧点検
2)厚生労働省ホームページ 医療 突合点検縦覧点検
3)山田謙次、安田純子 「日本の成長戦略と健康・医療分野への期待」
4)内閣官房日本経済再生総合事務局「日本再興戦略」