1.生活保護制度

平成29年1月5日
佐藤全孝

【はじめに】
日本国憲法第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」に規定する理念に基づくもので生活保護制度の趣旨は、資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度である。つまり生活保護とは、どんな手段を使っても国が定める生活基準に届かない分を手助けしてくれる制度のことである。(支給される保護費は、地域や世帯の状況によって異なる)
→生活を立て直すためのもの
生活保護:あくまで世帯を単位として能力の活用等を求めて補足性の要否を判定し程度を決定する(ミーンズテスト)。例外として大学生などを世帯分離する場合もある。
・被保護者:審査の結果、生活保護費を受給できると認められた者をいう。
・扶助費の負担率:国が4分の3、地方自治体が4分の1である(第75条)
・生活保護の支給総額:2001年(平成13年)度に2兆円、2009年(平成21年)度には3兆円を突破 し、2012年(平成24年)度は3兆8000億円を超えた。
・被保護者数:1995年88万2229人、2011年200万人突破、2012年212万4669人、2016年3月現在216万4154人で日本全国の人口の1,7%、100人中1.7人が生活保護を受けている。また生活保護法に基づく保護を受けている世帯(被保護世帯)は2016年7月現在163万4759世帯(3ヶ月連続の増加、対前年同月共に高齢者世帯の数は増加し高齢者世帯を除く世帯の数は減少)で、そのうち高齢者世帯が833,447世帯と最も多く、全体の51,3%を占めている。一方、傷病・障害者は43万9世帯、母子は9万9011世帯、失業者のいる「その他」は26万3425世帯でいずれも減少した。(例えば郊外での一人暮らしの場合生活扶助費と呼ばれる光熱費や食費をまかなうお金で7万円、家賃に4万円で現金合計11万円、医療費と水道代、NHK放送受信料などが免除される→世帯、地域によって異なる)
・保護率(全国平均1.70%、2016年2月時点)が高い地域:
1位大阪府(3.36%)2位北海道(3.13%)3位高知県(2.77%)
低い地域:富山県(0.33%)、次いで福井県(0.53%)→持ち家率が高い為保護率が低いと思われる。
市町村別(指定都市):1位大阪市(5.45%)2位札幌市(3.84%)3位京都市(3.13%)
・保護の対象:日本の国籍を有する者で国内での永住権を持つ外国人が日本人と同じように生活保護の 対象となるかどうかが争われた訴訟で、最高裁第二小法廷は2014年7月18日「外国人は生活保護法の対象ではなく、受給権もない」とする判断を示している。
・生活保護の打ち切り理由:トップは、「失踪」で生活保護を受けている人の自殺率は一般の人の2倍で、20代だと6倍となっている。
・生活保護の捕捉率(利用率):生活保護は申請に基づいた制度であることから調査から得られた「保護世帯比」が、申請の意思がありながら生活保護の受給から漏れている要保護世帯(いわゆる漏給)の割合を表すものではないとしているが、この捕捉率(利用率)は、ドイツでは64.6%、イギリス47~90%、フランス91.6%なのに対して、日本は15.3~18%となっている。
・生活保護を行うための保護施設(都道府県・市町村 第40条、社会福祉法人・日本赤十字社 第41条):救護施設・更生施設・医療保護施設・授産施設・宿所提供施設

相談・申請窓口
生活保護の相談・申請窓口は、現在お住まいの地域を所管する福祉事務所の生活保護担当で福祉事務所は市(区)部では市(区)が、町村部では都道府県が設置している。福祉事務所を設置していない町村にお住まいの方は、町村役場でも申請手続を行うことができる。

生活保護の条件
1、世帯主である     5、経済的援助を受けられる親族がいない
2、働くことができない  6、多額のローンを抱えていない
3、貯金がない      7、借金をしていない
4,資産を持っていない  8、今現在生活に困窮している
生活が苦しいからと言って、誰でも生活保護を受給できるわけではなく国が定める最低生活費(各自治体によって金額が違いますが、一人暮らしだと平均6~8万円、二人だと平均9~12万円、三人だと12~15万円)よりも少ない収入しかないため生活していけない、病気などで働くことができなく収入がない。など条件を満たさなければならない。またすぐに受給できるわけではなく、様々な調査を行い財産があればそれを生活費に充てる必要がある。(預貯金、土地・家屋等、車)・・・基本的に生活保護では、自分の車や家を所持することはできない。また親族などから扶助が受けられる場合は受給されない。生活保護を申請すると親や兄弟、離婚した相手(子供がいる場合)に福祉課からの『扶養紹介』の連絡が届き、たとえ親族に内緒で申請しても絶対知られることになる。
※資産の活用・能力の活用・あらゆるものの活用・扶養義務者の扶養

【生活保護の種類と内容】
1、生活扶助:日常生活に必要な費用(食費・被服費・光熱水費等)
2、住宅扶助:アパート等の家賃
3、教育扶助:義務教育を受けるために必要な学用品費
4、医療扶助:医療サービスの費用
5、介護扶助:介護サービスの費用
6、出産扶助:出産費用
7、生業扶助:就労に必要な技能の修得等にかかる費用
8、葬祭扶助:葬祭費用
※4、医療扶助(公費負担医療)
被保護者が、怪我や病気で医療を必要とするときに行われる扶助である。国民健康保険や後期高齢者医療制度からは脱退となり医療扶助は原則、現物支給であり金銭が支給されることはなく無料で医師の診察をうけ薬をもらうことができるもので、生活保護者が生活保護法で指定された医療機関で治療を受けるためには原則的には福祉事務所に請求をし、医療券(暦月を単位として発行され、有効期間が記載されている)をもらってから受診するという流れになる。ただし、急病などの場合は受診後に福祉事務所に連絡や手続きをして福祉事務所から医療機関に医療券を送付してもらう流れになる。尚、手続き等については、各市町村によって異なるので各自お住まいの担当福祉事務所に確認すること。→近年生活保護費のうち最も多い割合(約半分)を占めるのは、受給者の医療費である。対策としてケースワーカーと看護師、薬剤師など医療者が受給者を訪問して生活保護受給者の過剰受診や医療費の不正請求防止を強化する仕組みを導入。
生活保護費負担金事業実績(2014年度):総額約3.7兆円 医療扶助費46.9%・生活扶助費33.7%・住宅扶助費16.1%・その他2.2%
無料になる項目:
①診察費(一般の医科、歯科の診察費)薬代や治療材料費:薬局での調剤、松葉杖やコルセット、指定医療機関で必要とされた近眼用眼鏡、医療費の増大からジェネリック医薬品の使用促進を図っている。
②治療費、手術費:保険診療内、リハビリテーション、ただし痛みの緩和などを目的とする鍼灸、マッサージ、柔道整復費などは、医師による医療要可否意見書(福祉事務所が患者の病状を把握するためと医療扶助を行う必要があるかどうかを医師に確認を求めるための書類)から嘱託医が必要と認めなければ、保険適用であっても医療扶助の対象とならない。
③居宅における介護や看護:自宅での療養、そのための看護費、また要介護状態となった場合は介護扶助が受けられる。
④入院費:入院給食費も対象、入院期間1ヶ月以上などと長くなると家賃や光熱水費がかからなくなるため、生活保護費が入院患者日用品費に変更となり支給額が変わることがある。
⑤必要品費:通院時の交通費も対象だが利用したい際は通院先で通院証明書を書いてもらう。どうしても公共交通機関が使えない場合はタクシーの利用が認められることもあり、これには主治医の意見書も必要。転院時や救急搬送時の移送費も含まれる。オムツ代も医師意見書にて必要とされると支給される。
※自己負担ありの項目:
①入院時の差額ベッド代:本人希望で個室に移るなどした際の差額ベッド代、しかし病院側が治療に必 要と判断した場合は医療扶助の範囲内。
②保険対象外の薬代、治療費:一部の歯科治療費は自己負担で審美を目的とした歯科矯正やインプラント、う蝕治療で使われる金属の種類 金合金14カラット以上は自己負担

生活保護者が免除されるもの
1、地方税:住民税・固定資産税等
2、国民年金:保険料
3、上下水道費:基本料金
4、放送費:NHK放送受信料
5、都電・都営地下鉄・都営バス料金:共通無料パス(世帯に一枚)
6、公衆浴場の入浴料(風呂のない世帯のみ。入院・施設入所中の方は対象外)

まとめ
生活保護受給者数増加の主な原因は、広がる経済格差(お金のある人は資産を築き、お金を持たない人は資産を減らしていくというように格差が広がる現状)と高齢化社会(高齢化社会が続くかぎり、たとえ景気が上向いても年金支給額は増えず高齢者の収入が増えることはない。年金に関しては増額どころか減額されている現状。そうなってしまっては生活保護を受ける高齢者が増えていくのは仕方ないと言える)である。また問題点として挙げられるのは不正受給問題で2015年度の不正受給件数は全国で4万3230件余り、金額にして186億9000万円余り(生活保護費全体の0.5%で前年度より3億6000万円余り減少)である。しかしこれでも以前より周りの目が厳しくなり罰則強化や自治体の調査強化で12億1000万円余りもこの20年で減少して日本の生活保護の不正受給率は0.5%以下になり世界最低水準となっている。また年金受給額より生活保護扶助費の方が場合によっては高くなることが問題となる。生活保護は制限が大変厳しく多くの人が窮屈に感じている。収入はどんな収入でも報告する義務があり住むところも決まっていて、いくら生活費を削っても貯金をすることができないことである。世間がこの不正受給に過敏になりすぎると、本当に生活保護が必要な人が申請できなくなってしまうので必要以上に厳しい目で見ることは考えものである。私たち国民はこの制度を経済的弱者に対する最後のセーフティネット(安全網)と捉えて、出来る事なら申請しないように努力してどうしても必要な時は適切な申請と制度に沿った適切な生活を送り受給後に普通の生活に戻ろうとする強い気力をもつことが大切であると思う。そして国は、生活保護受給者が社会に復帰する意欲をもてるような環境作り(所得格差の是正等)をすることも必要である。また全ては身体が資本で健康に留意しながら生活を送りたい(健康寿命)。しかし人は一人では生きていけない、だから常に協力し合い、助け合うことが大切であると思う。
最後に一人でも多くの国民が健康な生活を送り元気に働ける環境作りを国が整えることで最後の砦とも言えるこの生活保護制度を利用することを少しでも回避できることが望ましい。そして日々の臨床の中で国民の健康寿命を延伸できるように努力することが、我々歯科医師の務めであると思う。

<参考資料>
1、厚生労働省HP:介護・高齢者福祉(生活保護制度)、報道発表資料、統計情報 生活保護資料 被保護者データ
2、第23回社会保障審議会生活保護基準部会(H28.5.27参考資料):生活保護制度の概要について
3、Wikipedia:生活保護、生活保護問題、生活保護の不正受給、生活保護法
4、nanapi:生活保護制度の基礎知識
5、ヘルスケア大学:生活保護制度における「医療扶助」について
6、生活保護.biz:生活保護
7、iryou.click:生活保護の医療費について
8、BLOGOS:生活保護の不正受給について
9、コトバンク:所得格差
10、情報速報ドットコム:生活保護について
11、看護師のWebマガジン(ステキナース研究所):過剰受診・不正請求問題
12、NAVERまとめ:生活保護を受けるための条件