9.総報酬割

平成28年12月8日
橋本博之

医療保険制度改革案のポイントの一つに総報酬割の導入がある。2013年度より総報酬割の全面導入を目指していたが、健康保険組合の理解が得られず断念するに至っていたが、段階を得る事により平成29年度より総報酬割の全面導入を実施する方向であるが総報酬割について考えてみた。

【総報酬割とは】
医療費の負担方法には加入者割と報酬割がある。
加入者割:保険料の算定の一つに保険料の負担額を、加入者の数で均等に割って算出する方法。
報酬割:加入者の所得割合によって保険料を算出する方法。
報酬割には総報酬割と全面総報酬割がある。
○総報酬割:
医療費などの負担の割合を健康保険組合の加入者の支払い能力に即したものにするため、ボーナスなどを含めたすべての報酬の平均収入に応じて設定する方法。加入者数に応じた頭割で算定される加入者割よりも、各健康保険組合の保険料率格差が是正される。その半面、加入者の所得が高いと健康保険組合の負担が重くなることになる。
○全面総報酬割:
医療にのみ成らず介護も含む健保組合などの被用者保険は、「前期高齢者医療」に対する納付金に加え、「後期高齢者医療制度」に対する支援金の拠出によっても財政的に圧迫を受けている。当初、各保険者が負担する後期高齢者支援金は、加入者数に応じて算定する事になっていたが、現在この支援金の新たな負担方法が検討されている。それが加入者の所得に応じて算出する「総報酬割」の全面導入である。これにより、総じて健保組合や共済組合などは一層重い負担を求められる事になる。「全面総報酬割」の導入で浮いた国費は、赤字に陥っている国民健康保険(国保)の財政再建に充当する案が考えられている。
政府は高齢者医療の4割を支える現役世代による支援金について2013年度より総報酬割の全面導入を目指していたが、負担増に直結する大企業中心に健康保険組合の理解が得られず、断念するに至っている。

【経過】
介護が必要な高齢者やその家族を社会全体が支えて行く仕組みである介護保険制度が2000年にスタートし紆余曲折を経ながらも今では無くてはならない制度として国民に浸透してきた。しかしながら高齢化社会の進展に伴って、費用は当初の3.6兆円から10.1兆円(2015年)へと3倍近くに膨らんだ。これを誰がどのように負担していくのか、と言う課題が重くのしかかっている。厚生労働省は2018年度の制度改正に向けた議論で「負担の在り方」をめぐる論点のひとつに「総報酬割」を位置付けた。

【総報酬割の全面導入で保険料はいくら上がるのか?】
負担方法を人数に応じて算出する「加入者割」から、所得に応じて算出する「総報酬割」へ全面移行することが決定されている。これによって大企業に勤めるサラリーマンや公務員などの保険料負担が増加され、中小企業に勤める協会けんぽ加入者の保険料は現状維持になる見込み。
国民皆保険を支える構成団体には以下の種類があり、それぞれ団体によって保険料負担能力に差がある。
◆国民皆保険を支える構成団体
①後期高齢者医療制度(75歳以上)
②国民健康保険(自営業、無職、パート等)
③協会けんぽ(中小企業の従業員)
④組合健保(大企業などの自前保険組合)
⑤共済組合(公務員)
このうち、①の後期高齢者医療制度は無収入の高齢者になるので、税金などさまざまな形で支えられて運営されているが、公費5割のほか、高齢者自身の保険料が1割、残りの4割を現役世代の「後期高齢者支援金」で賄われている。この後期高齢者支援金について、現役世代である協会健保や健康保険組合、共済組合、そして国保の加入者が負担してきたが、今までは各団体の「加入者数」に応じて決める加入者割も採用されていたため、不公平感があった。これを全面的に「総報酬割」を導入することで加入者数は関係なくして所得によって保険料の負担割合を一定にする仕組みが採用される予定。所得に応じて相応の負担をし、公平な国民皆制度にしようという趣旨になっている。この総報酬割の導入により、所得の低い中小企業のサラリーマンが加入する協会けんぽの負担は2400億円減るものの、それまで負担してきた公費分を減額するため、加入者の保険料の増減はほとんど変わらない。一方、協会けんぽの公費減額分の2400億円を、大企業などの組合健保や公務員の共済組合で補う形になり、こちらの加入者の保険料負担は増える予定になっている。
・協会けんぽ→ 加入者の保険料は変化なし
・組合健保 → 年間で平均5千円アップ!
・共済組合 → 年間で平均1万円アップ!

【まとめ】
総報酬割は、総じて所得レベルの高い健保組合や共済組合の負担が増えてしまう。一方で、中小企業のサラリーマンなどの多く入っている協会健保などは、逆に負担が軽くなる恩恵が受けられるが負担が増える大企業の健保組合などが、全面総報酬割に対し強い抵抗を続け反発の声が予想されており国がうまく説得出来るかが争点であるが医療者側には大きな問題はない。