8.地域包括ケアと在宅医療

平成28年10月13日 大井 了

1.はじめに
2016年は、団塊の世代806万人が75歳以上の後期高齢者になる2025年問題に向かってカウントダウンが始まった年です。
その2025年をめどに「住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築の実現」を目指しています。これは、病院で入院している時間を少しでも短くして、要介護状態でも住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを最後まで続けることできる社会を作ることです。高齢者の移動距離を少なくし、おおむね30分以内に必要なサービスが提供される生活圏域を単位に設定し、介護施設などの介護サービスの充実、重症化しないための予防対策、元気に暮らすための生活支援、そして何より医療の提供が必要不可欠となります。
従来の医療提供者と本人・家族だけでなく、いろいろな職種の人たちが連携して、自助・互助・共助・公助を一体的に進めていく、これが地域包括ケアシステム全体の大まかなイメージです。

地域包括ケアと在宅医療・図1

平成25年3月 地域包括ケア研究会報告書より

2.地域包括ケアシステムを考える視点
地域包括ケアシステムは視点の根本的な転換です。急性期から回復期、慢性期から介護へという医療の視点ではなく、そこに暮らすという住まいを拠点とする生活者の視点でつくられるシステムです。

① 急性期医療から在宅・高齢者住宅での医療、慢性期医療・介護サービスの一体化を縦軸に、そして予防・生活支援とまちづくりを横軸と捉え、地域の実情に合った地域医療介護ビジョンを作成していく、つまり、地域の数だけスタイルがあってよいのです。
② 地域に根ざした人と人とのつながりがあること、それぞれの人の物語りを尊重しながら、医療と介護を一体的に提供していきます。
③ 急性期医療の原理は「救命・治療」にあり、在宅医療や介護の原理はその人や家族の生活を支えることに重点が置かれますので、自動的には連携されていません。しかし、さらに高齢化する社会を考えれば、医療と在宅・介護の連携は不可欠です。急性期医療は地域包括ケアシステムの重要な一部です。急性期→回復期→慢性期→介護→在宅と循環的な構造の医療介護サービスの提供体制をつくり、病院完結型から地域完結型(連携型)医療介護へと転換していくべきです。
④ 地域の総合的なチーム医療介護には、顔の見える関係が必要であり、重要です。
⑤ 医療・看護・介護等従事者の必要量が増加するのが見込まれます。人材の養成確保が今後の重要課題となってきます。

3. まとめ
国が2025年問題を提議した背景は、団塊の世代の人たち806万人が75歳以上になることが根本です。要介護者の割合は、65~74歳までの方では5%未満ですが、75歳以上では30%くらいにまで増加します。そうなると医療保険体制、介護保険制度の財源不足に陥ることになります。そのための施策として、一つは40歳以上の生活習慣病を予防する「特定健診・特定保健指導」、もう一つが、医療提供体制を変える「地域包括ケアシステム」です。今後10年をかけて、国民皆保険を維持しながら社会保障制度を安定させるための施策なのです。
歯科口腔保健が全身の健康維持に有効というエビデンスが蓄積されてきまた。 その効果が医科をはじめとする多くの職種の方々に口腔ケアの重要性が理解されてきています。私たち歯科医師はその方々と「顔の見える関係」でコミュケーションをとり、連携を深めていき、この「地域包括ケアシステム」の一翼を担う必要があります。
団塊の世代が後期高齢者になる2025年に向かい、在宅歯科診療の需要は今後さらに増えます。人々が住みなれた生活の場で安心して老後を過ごせるように、歯科医師も医科、介護などの多職種と連携して歯科医療を提供していかなければなりません。

地域包括ケアと在宅医療・図2