3.外来受診時定額負担と免責制

外来受診時定額負担と免責制

平成28年4月18日 薄葉 博史

【経過】
「社会保障・税の一体改革成案」で、高額療養費の負担軽減の財源とするために平成23年7月に受診時定額負担の導入が示され閣議報告された。しかしながら、政府は、「規制・制度改革に係わる追加方針」に、高額療養費の負担軽減策として「社会保障・税の一体改革成案を踏まえる」として閣議決定を行った。
高額療養費制度とは、長期入院や治療により、ひと月あたりの医療費自己負担額が高額になった場合、申請により一定の金額(自己負担限度額)を超えて支払った医療費について給付を受けることができる制度で、平成26年12月までは所得区分により3段階に分けられていたが、平成27年1月より5段階に分けられ年収がおおよそ770万円以上の所得がある世帯については自己負担限度額が引き上げられた。更に自分で申請を行わないとこの制度を利用することはできない。この事で既に公費からの支出は削減されている。
「社会保障・税の一体改革成案」では、高額療養費の見直しによる負担軽減と、その規模に応じた受診時定額負担等の併せた検討が載せられている。これは、高額療養費の見直しによる負担軽減の財源として定額負担が充てられるとされている。しかし、平成14年の健康保険法等の一部改正で付則第2条第1項に「医療保険各法に規定する医療に係わる給付の割合について、将来にわたり百分の七十を維持し、安易に公的医療保険の範囲の縮小は行わず、現行の範囲の堅持に努めること」と明記されているだけでなく、平成18年の健康保険法等の一部を改正する法律案付帯決議に公的保険の給付範囲を維持するとも明記されている。従って、受診時定額負担はこれに抵触している。
これを基にして受診時定額負担と免責性について考えてみたい。本来、公的医療保険は「自助・共助・公助」で成り立っており、自助には自己管理を含む予防的なことが含まれる。共助とは、所得に応じた保険料であり、安易に外来受診時定額負担で高額療養費の負担軽減に使われるべきものではない。公助は、公的医療保険制度を維持するために税収から支出されるものである。
受診時定額負担は、定率負担に一定額の定額負担を受診者に負担させて、残りを医療保険がカバーするという考え方であるが、先に述べた健康保険法に抵触するだけでなく、今までの医療保険に係わる患者負担の変化から考えても一定額が徐々に増加してゆくことに歯止めはかけられず受診抑制も起こると思われる。厚生労働省の考えでは、一部負担金を100円と考えているようであるが、国家財政に占める医療費の割合が増えればいつまで堅持されるかが不明である。厚生労働省「概算医療費データーベース」による平成22年の医科・歯科の入院外来日数の合計では、①初診・再診の年間受診延べ日数約20.6億日 ②定額負担100円×20.6億日=約2000億円で医療費は▲2000億円となる ③さらに長瀬効果を加えると医療費は▲4000億円ぐらいになる。④医療費のうち公的負担は▲4000億円×約3割で公費は▲1300億円の効果が生じる。

※長瀬効果
制度的な給付率の変更に伴い、医療費の水準が変化することが経験的に知られており、この効果を長瀬効果と呼ぶ。例えば、患者負担が増加する制度改革が実施されると、受診行動に変化が生じ、受診率の低下や1件当たりの日数が減少する

免責制とは、医療保険の範囲を変えずにカバーする範囲をせばめることで、一部を保険給付の対象外にして定額負担を患者に求め、給付範囲を狭くすることで公的医療保険の支出を抑えようとする考え方である。この考え方も健康保険法に抵触するだけではなく、保険と保険給付対象外の併用となり、現行の健康保険法にも抵触する。

【問題点】
医療の進歩、超高齢社会、年齢構成の変化、労働人口の減少等様々な問題により、公的保険制度に軋轢が生じている。このような中で公費の増額は免れることができないと思われる。このような中で、受診時定額負担や免責制で一部の受診者に負担をかけるのは最も安易な方法であり公的医療保険と言えるのであろうか。かつて医療保険制度が破綻を来すといって、本来は介護予防のための保険制度として介護保険を分けたが現状では医療保険の二の舞になっている。地方自治体単位で行われている国民健康保険も高齢者が増えて持ちこたえられなくなり後期高齢者医療制度で都道府県単位となった。しかしながら、健康保険には、国民健康保険、協会けんぽ、組合健保、共済健保があり、それぞれに保険料率(共助の割合)が異なっていることにも問題がある。
国民負担率は平成27年度見通しによれば43.4%となっている。この内社会保障負担率は17.8%にすぎない。先進国の国民負担率は欧州では概ね50%、米国は約30%となっている。自己責任型の米国よりは高く、高福祉・高負担の欧州諸国よりは低くなっているが、他の国との違いは社会保障の一部を企業等が担っている部分が多い為に見かけの国民負担率は低いように見える。

【まとめ】
外来受診時定額負担や免責制で生じた財源を高額療養費の負担軽減のために用いることは、軽度の疾病での患者の受診抑制を生むだけではなく、将来、高額療養の必要な国民を増やす恐れが多い。一時の解決法でなく、将来を見据えた方策を考えるべきであろう。