2.保険者機能強化策

保険者機能強化策

平成28年4月11日 田中良彦

【 はじめに 】
 保険者機能強化策とは何でしょうか?
28年3月の大手新聞に全国健康保険協会(以後協会けんぽ)東京支部から次の広告が掲載されていました。


協会けんぽにご加入の皆さまへ
平成28年度(4月納付分~)の健康保険料率についてお知らせします。
東京支部の健康保険料率は引下げとなり、給与・賞与の9.97%➞9.96%(平成28年3月分から)となります。
私たちの保険料率はなぜ「引下げ」となるのですか?
 医療費の伸びを抑制できたことや医療費水準などが要因です。
 東京支部では、全国平均と比べて医療費支出の伸びを抑制できたこと、または医療費の水準がそもそも低いといった理由によって、平成28年度の保険料率は「引下げ」となります。
財政状況はどうなっていますか?
 財政の基盤を整え、安定化へ向けて一歩ずつ前進しています。
 平成27年度の医療保険制度改革法により、国庫補助率16.4%が期限の定めなく維持されることが決まり、収入の確保に一定の目処がつきました。しかし、主な支出である医療費が年々増加傾向にあり、保険料収入の基準である賃金の伸びを上回る状況が続いているため、今後の保険料率の見通しは楽観できません。
協会けんぽは、どんな取り組みをしていますか?
 医療費適正化への取り組みを積極的に進めていきます。
 年々増加傾向にある医療費を抑えるために「ジェネリック医薬品の使用促進」、「医療費審査(レセプト点検)」、「扶養家族の再確認」などの取り組みを引き続き強化していきます。さらに加入者の皆さまの健康保持・増進のために、「健診の受診率向上」と「健康サポート(保健指導)」を徹底していきます。
加入者の私たちには何ができますか?
 健康の保持・増進、保険の正しいご利用をお願いいたします。
 加入者の皆さまが健康になり医療費が抑えられれば、保険料率の伸びを抑制することができます。年に1回の健診、保健指導を積極的にお受けいただき、病気の予防や健康の保持にお役立てください。あわせて、扶養家族に変動があった場合の申請や医療機関での適正な受信など、健康保険の正しいご利用へのご協力をお願いいたします。


この広告より保険者が保険料率の抑制のために、加入者の健康増進と医療費を抑える取り組みをしていることが分かります。ここでいう保険者機能強化策とはレセプト点検の強化等の医療費の適正化にあたります。

【 保険者機能強化アクションプラン(第3期)について 】
 協会けんぽでは平成27年10月より第3期の「保険者機能強化アクションプラン」を制定し、今後、保険者として実現すべき目標“医療等の質や効率性の向上”“加入者の健康度を高めること”“医療費等の適正化”それぞれの目指すべき姿に向けて、支部・本部それぞれで具体的に講じていくべき施策を明確にしました。
 この中で医療費等の適正化について説明します。
目指すべき姿は次の3点です。
 ◦医療・介護に関する情報を提供することで、加入者が疾病予防等を図り、医療等を受ける際は質が高く安価な医療等の選択ができる。
 ◦医療費等の負担が将来的に過大とならないように、医療費の伸びを抑え、加入者が安心し定量・介護サービスが受けられる。
 ◦医療費等の適正化を通じて、協会の保険財政の安定化を図る。
目標実現に向けた着眼点は次の4点、
・加入者の健康増進、疾病予防
・医療提供体制等を効率化するための働きかけ
・同質ならばより安価な手段の選択
・不適切な利用や不正行為の防止
具体的な施策として挙げられているのは
1.ジェネリック医薬品の使用促進
2.レセプト、現金給付等の審査強化
3.医療機関の適切な利用を促す広報活動
4.各種審議会での意見発信

【 健保組合による直接審査支払について 】
 平成26年に協会けんぽは合意の得られた医療機関のレセプトを直接審査する旨を発表しました。すでに「健保組合による調剤報酬の直接審査支払」は平成20年10月から実施されています。これは健保組合からの求めに応じ健保組合が突合を行った調剤報酬請求書に係る審査に関し、適正な審査に関する意見を提出する等の業務を実施することです。しかしながら現在この例以外の健保組合による直接審査は行われていません。

【 まとめ】
 協会けんぽ以外の保険組合で「保険者機能を推進する会」や国民健康保険組合もレセプトの点検を強化しています。 保険組合は平成26年の医療法改正により、地域医療構想の策定にも参画することになるなど、法律上、位置付けられました。そして加入者の利益を守るために様々な試みを行っています。レセプト点検の強化は電算化に伴い、突合点検や縦覧点検がコンピューターで簡単に行えるようになっていますので、保険者による再審査請求が増えています。受診者に対してアンケートをとっている組合も多くあります。
 今後、私ども医療機関は適正なレセプトの提出が求められるだけでなく、効率の良い治療も求められると思われます。保険者の顔色を伺っての治療や、患者さんに迎合するのはいかがなものかと思いますが、医師の仕事は本来患者さんの顔色を伺うことですからしょうがないのでしょうか。